研究課題/領域番号 |
15H05737
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西野 吉則 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (40392063)
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研究分担者 |
木村 隆志 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (50531472)
鈴木 明大 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (20781850)
大島 泰郎 東京薬科大学, 生命科学部, 名誉教授 (60167301)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | X線自由電子レーザー / 可視化 / 細胞 / 超精密計測 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、X線自由電子レーザー(XFEL)のフェムト秒オーダーのパルス幅を利用して、異なる状態の細胞を、独自開発したパルス状コヒーレントX線溶液散乱(PCXSS)法により放射線損傷なくイメージングすることにより、生細胞のナノレベルダイナミクスを観察することを目指している。異なる状態の細胞の調製方法として、同調培養による細胞周期の同期、温度制御、ケージド化合物を用いたフラッシュ・フォトリシスなど異なる手法の検討を進めた。 同調培養に関しては、PCXSS測定に適するMicrobacterium菌の細胞分裂周期の特定の段階にある細胞を調製し、XFEL施設SACLAを用いたPCXSS測定により細胞画像をナノレベルで得ることに成功した。温度制御に関しては、温度制御装置を開発・立ち上げ調整を行い、SACLAを用いたPCXSS測定において試用した。ケージド化合物を用いたフラッシュ・フォトリシスに関しては、PCXSS測定において細胞を封入するマイクロ液体封入アレイ(MLEA)チップ内に観察試料とケージドプロトンを導入し、紫外線を事前に照射した場合と、照射しない場合に対して、溶液中の試料画像を得ることに成功した。 また、細胞のダイナミクスをXFELとは相補的に観察することを目的として、高速原子間力顕微鏡を用いてMicrobacterium菌の観察を行った。 さらに、PCXSS測定技術や試料像再構成(位相回復)技術を高度化するため、4つのアダプティブ全反射鏡を用いたX線ズームレンズ光学系を構築し、新たに開発した非走査型のアポダイズ照明コヒーレント回折イメージング法により、X線集光スポットサイズよりも大きな試料の像再構成に成功し、論文発表を行った。また、細胞試料に関しては、Thermus属細菌細胞の大きさが変化する新規現象を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞の状態を同期させる方法として取り組んだ、同調培養、温度制御、ケージド化合物のフラッシュ・フォトリシスのいずれにおいても、当初の計画通りに研究が進行した。同調培養に関しては、Microbacterium菌に対して順調にPCXSS測定を行った。温度制御に関しては、平成27年度に導入した試料加熱冷却機構をPCXSS測定において問題なく使用できることを示した。ケージド化合物のフラッシュ・フォトリシス測定に向けた事前準備も滞りなく進んだ。また、PCXSS測定技術の高度化に関しても、新たな技術開発や装置の導入が予定通りに進行した。さらに、新規微生物の探索では、生物学的により意義の大きいThermus属細菌に関して、PCXSS測定に繋がる新たな知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、いくつかのアプローチにより細胞の状態を同期させ、異なる状態の細胞を、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いたパルス状コヒーレントX線溶液散乱(PCXSS)法でイメージングすることにより、生きた細胞のナノレベルダイナミクスの観察を目指す。 同調培養に関しては、今後、細胞画像をさらに数多く取得することにより、細胞分裂周期の各段階での細胞構造の特徴を抽出し、細胞学的な知見を得ることを目指す。温度制御に関しては、Microbacterium菌に対してPCXSS測定を進める。フラッシュ・フォトリシスでは、ポンプ・プローブ測定に対応した試料チャンバーが平成29年度よりSACLAにおいて利用可能になる見込みで、今後本格的に研究を進める。 さらに、MLEAチップやPCXSS測定技術や試料像再構成(位相回復)技術を高度化する研究を進める。細胞試料に関しては、平成28年度に発見したThermus属細菌細胞の大きさが変化する新規現象について、さらに研究を進める。
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