研究課題/領域番号 |
15H05741
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
荻尾 彰一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (20242258)
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研究分担者 |
竹田 成宏 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (40360581)
有働 慈治 神奈川大学, 工学部, 助教 (50506714)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 宇宙線物理学 / 超高エネルギー宇宙線 / 化学組成 / 宇宙線源 / 粒子加速 / 宇宙線の伝播 |
研究実績の概要 |
地表粒子検出器(SD)80台と大気蛍光望遠鏡(FD)10台を設置し、Telescope Array Low energy Extension(TALE)ハイブリッド検出器を完成する。建設後2年間の観測から、10の16乗から10の18乗電子ボルト領域宇宙線の、銀河系内起源での加速、磁場による閉じ込め・遮断、銀河系外起源の宇宙論的進化、の解明に迫ることが研究目的である。平成29年度の交付申請書の実施計画5項目に沿って以下に実績を述べる。1.SDの製作・空気シャワーアレイの完成: SDの製作は2017年夏に東京大学宇宙線研究所明野観測所で行われた。同年11月に米国ユタ州デルタ市のユタ大学付属宇宙線センターに輸送され、そこで組み上げ、調整が行われた。2018年2月までに、既設の35台のSDと合わせて、合計80台のSDでTALE実験SDアレイが完成した。TA×4実験の23台のSDがTALE実験サイトに仮設置されており、2018年3月現在103台のSDがある。2.データ収集システムの高速化・安定化:通信プロトコルをTCPからUDPへ変更し、通信速度を向上させた。2018年2月までに既知の不具合を全て解消し、3月から定常運転を続けている。3.ハイブリッド化:平成29年度にハイブリッドトリガーシステムの開発に着手し、信号発生器とPCで構成した擬似FDと3台のSDからなるハイブリッド検出器を作り、データ収集系が完成した。2018年8月にTALEサイトに実装する予定である。4.観測の継続:FDによる観測、SDアレイによる観測(2018年3月より)が継続されている。5.データ解析プログラムの開発:TALE実験FDで取得されるデータに対する解析プログラムは2018年3月に完成した。TALE実験SDアレイで取得されるデータに対する解析プログラム、ハイブリッド解析プログラムは現在開発中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SD80台によるTALE実験SDアレイが2018年2月に完成し、データ収集システムも安定稼働状態に入った。TALE実験はTelescope Array実験(TA実験)と共同することで、10の16乗から10の20乗電子ボルトを超えるエネルギー領域を、単一のエネルギースケールでシームレスに、しかもFDとSDのハイブリッドで観測する世界で唯一の装置であり、TALE実験SDアレイの完成によって、これが完成した。 当初予定の103台よりも少ないが、TA実験より低いエネルギーの宇宙線を観測するための設置間隔400mの領域と間隔600mの領域は完全にカバーされており、研究目的の達成に実質的な問題はない。不足分23台のSDはTA実験SDアレイとの接続領域、間隔1.2kmのところであり、また、現状ではTA×4実験SDが仮設置されており、少なくとも2018年11月まではTALE実験SDアレイの一部として使われる予定である。 ハイブリッドトリガーの実装は2018年8月の予定である。ハイブリッド事象自体は、しきい値エネルギーはやや高くなるものの、現状でも取得できている。2017年9月から開発が着手されているハイブリッドトリガーシステムは実験室レベルでは完成している。 データ収集・データ解析は今後行われるが、化学組成決定に使われるパラメーターである空気シャワー最大発達深さ(Xmax)の精度20g・cm^-2を達成できる見込みで、これは世界最高レベルの精度であり、10の16.5乗電子ボルトから10の18乗電子ボルトのエネルギー領域では史上最高の精度である。 TA実験の3台のFDとTALE実験FDの4つのステーションでステレオ観測された空気シャワー事象の解析が可能になっている。これは世界で唯一の解析能力で、TA実験の米国側グループでも達成していない。エネルギースケールの統一はこのプログラムを通して行われる。
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今後の研究の推進方策 |
1.ハイブリッド観測開始:大阪市立大学のテストアレイではハイブリッドトリガーが2018年2月に完成している。これを同年8月にTALE実験に実装し、運用を開始する。 2.人材の強化(建設からデータ解析へ): 2018年4月からデータ解析に本格的に着手する。TA実験において、化学組成決定の指標であるXmaxのステレオ解析を担当し、この解析に精通する多米田裕一郎(大阪電気通信大学・工学部・講師)を2018年度から研究分担者に迎える。さらに大阪市立大学では、銀河間空間での宇宙線の伝播の専門家を博士研究員として雇用する。このように人材を集めて、建設からデータ解析、結果の解釈への研究の重点を移す。TA実験でも同じ解析を担当し、成果を挙げたスペシャリストを適切に配置し、さらに大学院生を加え、データ解析を強力に推進する。 3.TALE実験の較正:TA実験の電子線形加速器(ELS)を基準として、TALE実験FDを較正する。ELSのビームはTALE実験FDからは検出不可能なので、ELSで直接較正されているTA実験FDとの相対較正が必要である。このために、中央レーザー施設の射出するUVレーザーの散乱光の同時観測、可搬UVレーザー、ドローン搭載LED光源などの較正用光源を用いる。 4.定常観測の継続と他の観測装置との連携:定常観測を2年間継続する。TA実験と比較したエネルギー・到来方向決定精度の推定、TA実験との間のエネルギースケールの統一などにはTA実験との連携が必要である。低エネルギー側での化学組成決定には、チェレンコフ光検出によってTALE実験よりさらに低エネルギー側への観測感度を拡張するNICHE実験との連携も重要である。
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