研究課題/領域番号 |
15H05742
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
齊藤 直人 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, センター長 (20321763)
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研究分担者 |
吉岡 瑞樹 九州大学, 先端素粒子物理研究センター, 准教授 (20401317)
三部 勉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (80536938)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 標準模型 / 新しい物理法則 / ミューオン / 精密測定 / 精密磁場 / 素粒子実験 / 基礎物理学実験 / 対称性 |
研究実績の概要 |
ミュオン異常磁気能率の精密測定による新物理法則の探索のための陽電子飛跡検出器の開発を実施した。読み出し用集積回路を回路基板に実装する前の段階で品質確認をするためのシステムを構築した。また、フロントエンド読み出し回路基板に修正を加え、前回試作で見つかった軽微な問題点を取り除くとともに、組み立て信頼性が向上する工夫を施した。これらによって、ほぼ全てのチャンネルで良好に動作する試験モジュールを4台製作することができた。これをまず実験室のテストベンチで試験を行い、読み出しが良好にできることを確かめた。次に、データ収集システムを拡張し、複数モジュールからデータを読み出せるようにした。これを東北大学で陽電子ビームを照射してその応答を調べ、想定されるS/Nで信号が読み出せることが確認できた。さらに、J-PARCのミュオン実験施設にてミュオン崩壊で生じる陽電子の計測を行い、想定通りの動作をすることを確めた。ミューオニウム超微細構造の精密測定実験に投入し、データを取得した。センサーと読み出し集積回路の間を接続する狭ピッチフレキシブル回路基板の試作・評価を終えて、量産を終えた。 並行して、これをミュオンg-2/EDM実験の検出器として組み込むための機械構造の設計を進めた。4枚のセンサーを2x2の配置で精度良く配置するため、専用の治具を開発し、CMMを用いて精密に設置・接着する方法を開発した。また、信号の読み出し回路で生じる熱を除熱するための冷却システムの開発を行なった。 g-2/EDM測定における系統誤差を定量的に見積もるためのシミュレーションとソフトウェアの開発を行ない、想定される系統誤差が70ppb以下になると見積もった。その他のレビューの指摘事項にも対応し、2018年11月に素粒子原子核研究所から、2019年2月に物質構造科学研究所からそれぞれ正式に第2段階実験課題として承認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、陽電子飛跡検出器の開発を進めるとともに、2017年度に受けた専門家による国際レビューでの指摘事項に対応することが目標であった。レビューでの指摘事項の一つであった検出器由来の系統誤差の評価を行うための飛跡再構成ソフトウェアの開発を遂行し、検出器係数率が大きく変化する環境における検出器応答変化やアルゴリズムに起因する系統誤差を評価することができた。これらをまとめた回答をレビュー委員会に提出し、全員一致で次の段階へ進むべしという答申を得た。これを受けて、素粒子原子核研究所および物質構造科学研究所の課題審査委員会で審議が行われ、それぞれ正式に第2段階実験課題として承認された。検出器の開発は予定通り良好に動作する試験モジュールを4台製作することに成功し、予定通りミューオニウム超微細構造実験に投入して物理データの取得を行なうことができた。検出器製作上のチャレンジの一つであった狭ピッチフレキシブル基板の開発も無事終わり、必要な全数を量産することができた。次年度に行う組み立ての準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きシリコン飛跡検出器の開発を中心にミュオン異常磁気能率の精密測定の準備を進める。最終年度となる今年度は、これまで開発してきたコンポーネントを組み合わせて、陽電子検出器の組み立てを実施する。並行して、J-PARCミュオンビームラインにおいて、ミュオニウム超微細構造測定実験での測定を継続し、新しい手法によるミュオニウム超微細構造測定を確立する。現段階では、実験施設側の都合でミューオンg-2/EDMの行うためのビームラインの準備が整っていないが、ビームラインや他設備が整備され次第、実験が開始できるように陽電子飛跡検出器の準備を周到にする。
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