研究課題/領域番号 |
15H05748
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大谷 栄治 東北大学, 理学研究科, 教授 (60136306)
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研究分担者 |
坂巻 竜也 東北大学, 理学研究科, 助教 (30630769)
平尾 直久 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (70374915)
福井 宏之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (90397901)
宮原 正明 広島大学, 理学研究科, 准教授 (90400241)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 地球核 / 高温高圧 / X線非弾性散乱 / 放射光メスバウア法 / 音速 |
研究実績の概要 |
本年度の実験では、①核構成物質の高温高圧下における音速測定、②メスバウア分光法による核構成物質の高圧下での磁性転移の研究、③内核・外核の軽元素分配の研究、④核の形成過程と核マントル相互作用の研究を進めることができた。音速測定では、世界に先駆けて鉄の多形であるhcp-Feの核の温度圧力条件での縦波速度Vpの測定に成功した(Sakamaki et al., Science Adv.,2016)。また、bcc-Feの縦波速度、横波速度の高精度の測定も行うことができた(Shibazaki et al., Am Min, 2016)。これにもとづいて、内核の軽元素の候補として、水素、硫黄、珪素の可能性を示唆した。また、既存のhcp-Feの音速と密度の測定結果を検討し、もっとも信頼できるhcp-Feの密度と音速の関係式を提案した(Antonangeli and Ohtani, 2015)。また、②のバウア分光法については、Fe-Si合金については、bccからhcpへの構造相転移と磁性から非磁性への転移が1GPa以内で一致して起こることを開らかにした。また、hcp-Feおよびhcp-FeNi合金で室温で約30 GPaで認められるリフシッツ転移がFeSi合金にも起こることを、はじめて明らかにした。転移が正の勾配を持つ場合には、核の条件でもこの転移が存在する可能性があり、今後検証が必要である。また、FeOについて高圧下で低スピンから高スピン状態の相転移が100-150GPaの広い圧力範囲で徐々に生じることを明らかにした(Hamada et al., Phys. Rev. B., 2016)。③、④の核における軽元素については、珪素、硫黄、酸素の内核および外核の間の元素分配の実験、核とマントル間の炭素、水素の分配の実験を行い、内核と外核に存在し得る軽元素の種類と量について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実験では、①核構成物質の高温高圧下における音速測定、②メスバウア分光法による核構成物質の高圧下での磁性転移の研究、③内核・外核の軽元素分配の研究、④核の形成過程と核マントル相互作用の4課題の研究を進めている。①核を構成する物質の音速測定では、世界に先駆けて鉄の多形であるhcp-Feの核の温度圧力164GPa, 3000 Kの条件での縦波速度Vpの測定に成功した。また、bcc-Feの縦波速度Vp、横波速度Vsの高精度の測定も行うことができた。これにもとづいて、内核の軽元素の候補として、水素、硫黄、珪素の可能性を示唆することができた点は大きな前進であった。金属鉄の音速に関しては、研究グループ間で大きな実験データの食い違いある。この問題点を、既存のhcp-Feの測定結果を検討し、もっとも信頼できるhcp-Feの密度と音速の関係式を提案した点も大きな進歩であった。②のバウア分光法を用いた磁性の研究では、高温高圧下での磁性測定をめざしたが、ビームラインのX線光学系の調整不良のために、十分な強度のX線が得られず、予定通りの高温高圧での測定はできなかった。しかしながら、室温においては、Fe-Si合金については、bccからhcpへの構造相転移と磁性から非磁性への転移が1GPa以内で一致して起こることを開らかにした。また、hcp-Feおよびhcp-FeNi合金で室温で約30 GPaで認められるリフシッツ転移(電子トポグラフィ転移)がFeSi合金にも起こることをはじめて明らかにするなど、新たな進歩は見られた。また、FeOについて高圧下で低スピンから高スピン状態の相転移が100-150GPaの広い圧力範囲で徐々に生じることを明らかにした。③、④の核における軽元素については、珪素、硫黄、酸素の内核および外核の間の元素分配の実験、核とマントル間の炭素、水素の分配の実験を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の実験を継続するとともに、次のステップの実験的研究に着手する。 前年度に引き続き、SPring-8のBL35XUおよびBL43XUにおいて、X線非弾性散乱法によって、160GPa, 3000Kの高温高圧下において、FeNiおよびFeと軽元素(Si,S,C,O,等)系の合金・化合物の音速を系統的に測定し、hcp-Feの音速に対する軽元素の固溶の影響を解明する。また、測定の圧力条件をさらに拡大する。 エネルギー領域放射光57Feメスバウア分光システムを用いて、金属鉄、Fe-軽元素(Si, C, O)系の合金および化合物に対して、磁性と構造相転移の関係を明らかにする。PFおよびSpring-8において、鉄合金などの選択配向と弾性波速度異方性を解明し、内核の地震波異方性の起源を議論する。 前年度に引き続き、核の条件における高温高圧X線回折によってFe-Si-S系などの溶融関係の解明し、内核・外核間の元素分配様式を決定する。また、金属鉄・ケイ酸塩間の軽元素の元素分配実験を行い、マグマオーシャンでの核の分離過程を明らかにし、地球核の総化学組成に制約を与える。
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