研究課題
本年度は、昨年度に引き続いて、①鉄および鉄軽元素合金の音速測定、②メスバウア分光法による鉄ケイ素合金の磁性転移および電子とポグラフィ転移の解明、③鉄ニッケルケイ素合金の相平衡実験、④核とマントルの相互作用と核マントル境界の研究、鉄・水素系の相平衡、鉄中の水素の存在様式を解明する中性子回折実験を継続した。① 鉄・軽元素系の音速測定においては内核におけるケイ素の存在量を見積もるためにhcp構造のFe-Ni-Si合金の音速を、X線非弾性散乱法を用いて高温・高圧下において測定した。② メスバウア分光によるFe-Si合金の磁性転移および電子トポロジカル転移について、構造相転移と磁性転移の関係を明らかにし、hcp鉄ケイ素合金において、電子トポロイカル転移の組成依存性を明らかにするために、Fe-Si合金のX線粉末解析およびメスバウア分光測定実験を行った。③ Fe-Ni-Si合金の相平衡実験に関しては、hcp構造相とともに、B2相が広い組成・温度・圧力範囲で安定に存在することを見出した。この結果は、地球の内核においては、hcp相とともに、B2相が存在することを強く示唆する結果が得られた。④ 核マントル境界において、鉄と水の反応の結果FeHとFeOOH相が存在することを見出した。また、FeOOH相の高温部に出現するポストペロブスカイト型のFe2O3相の音速を、X線非弾性散乱法を用いて明らかにした。⑤ 高温高圧中性子回折実験を行い、fcc構造中の水素が6配位席とともに4配位席にも存在することを初めて明らかにした。また、水素の固溶による格子の膨張量を決定した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、X線回折実験による相平衡実験、非弾性散乱法による音速測定、X線メスバウア法による磁性転移の解明、中性子回折実験による鉄中の水素の研究など、鉄合金を複数の手法を用いた実験が行われた。X線非弾性散乱実験に関しては、hcp-FeNiSi合金の高温高圧での測定を行い、論文として準備中である。また、Fe3Cについては論文として発表し、Fe3S、FeNi合金についての高温高圧での測定結果を、論文として準備中である。また、予定以上の成果を目指して、鉄―水素系の中性子回折、メスバウア分光、X線非弾性散乱を用いた音速測定を継続している。X線メスバウア分光測定に関しては、高圧高温でのメスバウア分光測定において、レーザー加熱のシステムの導入の問題で遅れが認められたが、外熱ダイヤモンドアンビルを用いて高温での測定を実現した。また、地球核の圧力でのメスバウア分光によって、FeOのスピン状態を解明し論文化するとともに、FeSi合金において、電子トポロジカル転移を示唆する結果を初めて得るなど、ほぼ期待通りの結果を得ている。高温高圧中性子実験に関しては、J-PARCにおいて、実験の機会を得ることができた。この鉄中の水素(H)の中性子回折実験は、重水素(D)以外は困難であるとして、当初測定が疑問視されていたが、この測定が重水素と同程度の精度で測定を行うことができた点は、予定以上の成果と言える。また、世界で初めて高温高圧下での鉄水素化物中の水素の席選択や固溶度などを測定することに成功したことも、予定以上の成果である。この結果は2019年4月にScientific reports誌に発表した。以上の実験の現状を総合すると、研究はおおむね予定通り順調に進んでいるものと考えられる。
非弾性散乱法においては、昨年度に引き続いて、SPring8のBL35XUおよびBL43XUにおいて、核の主要構成物質であるhcpFeNiSi系の合金の音速測定を行う。特に、核に存在する可能性のあるB2(BCCに関連する構造)相のFeNiSi合金相についても高圧下での音速測定を行う。また、核マントル境界の存在が予想されているポストぺロブスカイと型Fe2O3相などの音速測定を試み、核マントル境界の超低速度層(ULVZ)にこれらの相が存在しうるか否かを明らかにする。FeNiSi系においては、相平衡実験によって、広い組成と温度圧力範囲でhcp相とB2相の安定領域を特定する計画である。核の水素の存在を明らかにするために、鉄水素化物の高温高圧中性子回折実験を継続し、fcc相のみならずdhcp相鉄中の水素の挙動を明らかにすること、鉄―水素系の高圧相の磁性をメスバウア分光によって明らかにする。地球核に関する実験結果を地震波モデルと比較するためには、より正確な圧力スケールの確立が不可欠である。そのためにレニウムの音速(Vp、Vs,密度)を核の条件までの測定を試みる。これらの結果を総合して、核のモデルを提案する。
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