研究課題/領域番号 |
15H05750
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 靖 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30214191)
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研究分担者 |
井 通暁 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00324799)
田辺 博士 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (30726013)
原 弘久 国立天文台, SOLAR-C準備室, 准教授 (20270457)
清水 敏文 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (60311180)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 磁気リコネクション / 2次元イオンドップラー計測 / 2次元トムソン散乱計測 / 2次元X線計測 / 2次元画像比較 / 粒子加速・加熱 / 高磁場プラズマ合体 / リコネク ション応用開拓 |
研究実績の概要 |
中間審査で指摘のあった高磁場化による高イオン温度化を遂行し,0.3Tの再結合磁場で2.3keVを達成して結合磁場の2乗に比例するリコネクションのイオン加熱則をkeV領域で実証した。その上でより本質的な指標:加熱パワーが損失パワーを2桁上回る状況を確保しつつ,リコネクション加熱・加速機構の解明を進めた。 1)リコネクションのイオン加熱が予想以上に巨視的である原因はアウトフロー中で先行する電子が合体するトカマクの裏側まで先回りして負電位域を広く形成するためであった。PICシミュレーションも従来の局所スラブモデルを磁束管合体モデルに変えると一致し,リコネクション加熱は局所でなく,巨視的現象と判明した。X点周辺を模擬する従来の実験は負電位域が壁に達し,加熱の検証は困難なため,合体実験の正当性が証明できた。 2)電子温度は,X点周辺とセパラトリクス上で鋭くピークし,予想を超えた局所加熱が2次元X線計測・トムソン散乱計測で明らかになった。X点のピークはリコネクション電場による電子のサイクロトン加速に起因する。PICの協力により,2個の合体トカマクの電流ループとシート電流のループが接近すると二流体不安定を生じて高温領域が局在化するためと判明した。セパラトリクス上は高エネルギー領域が複数確認され,波乗り加速が有力である。 3)入射角度可変の中性粒子ビーム入射装置による高速イオンでイオン軌道を制御すると,リコネクション速度が低下する現象が見られ,リコネクション制御に初めて成功した。 4)PICは磁束管合体の巨視的シミュレーションに成功したことで1)2)で実験との一致がみられ,太陽衛星観測もX線に加えイオンドップラー計測が実験と共通の2次元計測となり,1)2)に加えて,電流シート中で多数形成が観測されたBlobとその合体がよく一致し,実験,観測,理論・シミュレーションの間で共通の物理解釈が進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中間審査で指摘された高磁場化による高イオン温度化に対して,直ちに0.3Tの再結合磁場を合体トカマク実験で実現して2.3keVを達成し,東大で見出したイオン加熱が再結合磁場の2乗に比例する物理をkeV領域まで実証できた。物理検証実験では,リコネクション室内実験において加熱パワーが損失パワーを2桁上回ることをより本質的な指標として示しつつ, 1)リコネクションのイオン加熱は局所現象でなく,アウトフロー中の電子が先行して閉じた磁力線全域にわたって負電位を形成する巨視的現象で, 2)逆に電子加速・加熱領域はX点とセパラトリクス上に局在することを,局所モデルから巨視的な磁力管合体モデルに大転換したPICシミュレーションや太陽観測の2次元X線計測と連携して立証したこと,さらに 3)中性粒子ビームによってリコネクションを制御したことは大きな成果と言える。 これらの点は25を超える分野連携した共同論文や25を超える招待講演となった他,小野がまとめ役となってPhysics of Plasma 誌でのリコネクション特集論文集を出版した。これらの成果はプラズマ核融合学会,電気学会の論文発表賞,奨励賞を通じて内外より高く評価されており,まさに本研究のテーマであるリコネクションのイオン加熱物理の解明に対して小野には2019年米国物理学会フェローが贈られ,続いて2020年電気学会フェローにもなった。 巨大なリコネクション加熱はMW, GWに達し,核融合プラズマ加熱に極めて有用と判明した。内外の投資により英国トカマクエナジー社ST-40実験が小野を顧問として開始され,こちらでも合体だけで3keVに達するイオン加熱を実現している。これらの成果は,商業誌電気評論に小野の解説記事が掲載されるなど注目を浴びており,2019年度の研究は一部で当初見込みを上回る進展を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
keV領域でのリコネクション実験に初めて成功し,極めて巨視的とわかったイオン加熱,X点,セパラトリクス上に鋭く局在化することが判明した電子加熱の主要な効果は,実験室・PICシミュレーション・太陽観測の連携で明らかになった。既にリコネクションのイオン加熱物理の解明で受賞も複数得たことから,最終年度の焦点は,1)リコネクションに伴うマイナーであるが高エネルギー粒子を生む粒子加速効果の検証,2)中性粒子ビームによるリコネクション加熱の制御,3)リコネクション加熱の応用開拓にある。1)は計画を変更して高分解能のX線カメラで高エネルギー電子,高分解能の中性粒子エネルギー分析装置で高エネルギーイオンのエネルギー分布を捉えようとしており,成果が現れはじめている。2)は中性粒子ビームによる粒子軌道の変化が電流シートの不安定の抑制を通じてリコネクション電場や電子のアウトフローを経て最終的に加熱に影響するメカニズムを明らかにする。3)の応用開拓は最終目標であったが,リコネクションの高出力のイオン加熱によって核融合点火を行う東大の提案や加熱実験の成果が多くの招待講演となって反響を呼び,東大の合体実験の高磁場化に加え,同提案によって開始した英国ベンチャー企業Tokamak Energy社ST-40実験のリコネクション加熱でkeV領域を実現する成果をあげ,今後も学生・スタッフを派遣し,設置した東大の2次元イオン温度計測装置を本格運用して複数装置による工学応用の確立,スケーリングデータ拡充を進める予定である。
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