研究課題/領域番号 |
15H05758
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
渡邉 正義 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (60158657)
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研究分担者 |
獨古 薫 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70438117)
吉田 亮 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (80256495)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | ゲル / コロイド / イオン液体 / ソフトマテリアル |
研究実績の概要 |
高分子ゲル・コロイドなどのソフトマテリアルは、その構成成分のほとんどが液体である場合が多い。このことが物質内の大きな内部自由度を生み、外部刺激の微細な変化に応答して的確に機能するスマートマテリアルとしての期待も大きい。しかし、これまでの研究は、概して高分子に視点が集中していて、主構成成分である液体の構造、あるいは高分子に誘起される液体構造変化に着目した研究は少ない。これらソフトマテリアルの自律的な構造形成・揺ぎ・転移は液体の構造形成性にその根源があるとの視点が本研究の原点である。具体的には、構造形成性液体としてイオン液体を選択し、これを用いたソフトマテリアルの自律性に及ぼす液体の構造形成性・階層性の影響を明らかにすることを目的とした。本研究では、以下の項目を検討、精査している。 (1) 高分子のイオン液体中への溶解現象の理解:高分子のイオン液体中への溶解性を理解する上で欠かせない視点は、カチオンまたはアニオンと高分子の相互作用に、イオン間相互作用が競合する点である。溶解性を支配するイオンと高分子との相互作用を分類し、イオン間相互作用との競合という視点で溶解現象の理解を図っている。 (2) 温度によるソフトマテリアルの自律性発現:イオン液体中で上限臨界溶液温度(UCST)型さらに下限臨界溶液温度型(LCST)相分離を示す高分子の相分離現象を、イオン液体の構造形成性、高分子に誘起される液体構造変化という観点から精査している。 (3) 光によるソフトマテリアルの自律性発現:温度により自律性発現する高分子系にフォトクロミック化合物を導入することにより、光によるイオン液体/高分子系の集合状態の転移を実現する。 (4) 化学反応によるソフトマテリアルの自律性発現:イオン液体中でのBelouzov-Zhabotinsky(BZ)反応が見出し、これをソフトマテリアルの自律性発現に結び付ける研究を展開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況を、検討項目ごとに纏める。 (1) 高分子のイオン液体中への溶解現象の理解:高分子のイオン液体中への溶解現象を定量的に判断する手法として、シリカナノ粒子にATRPを用いて高分子をグラフト化し、この粒子の流体力学的半径を動的光散乱を用いて測定する方法を確立した。PMMAといった弱い相互作用で溶解が起こっている系で検討を進めた所、アニオンのルイス塩基性、溶解度パラメータといった因子より、疎水性パラメータが最も良好に溶解性を説明することを見出した。一方、ポリエーテル系の高分子はイオン液体中に水素結合によって溶解が起こっており、これがカチオン・アニオン相互作用と競合すると考えることにより、溶解現象を説明できることを明らかにした。 (2) 温度によるソフトマテリアルの自律性発現:イオン液体中でLCST型相分離を示す高分子(A, C)を含むトリブロック共重合体(ABA, ABC: Bはイオン系と相溶性)を合成し、その温度による自律性発現を検討した。濃厚溶液系で、ABAはゾル(ユニマー)⇔ゲル転移を、ABCはゾル(ユニマー)⇔ジャミングミセル⇔ゲル転移をそれぞれのLCST温度で起こすことを明らかにした。 (3) 光によるソフトマテリアルの自律性発現:イオン液体中で光応答性のUCST型相分離を示す高分子(A)を含むABAトリブロックおよび(AB)4テトラアーム共重合体を合成、光照射による可逆的ゾルゲル変化を実現した。さらにこの現象を利用した、光治癒材料を提案した。 (4) 化学反応によるソフトマテリアルの自律性発現:無機強酸存在下、0 < pH < 1 程度の過酷な酸性条件のみで進行が確認されていたBZ反応のメディアに水和プロトン性イオン液体 を適用したところ、強酸無添加の穏和な条件にも係わらず化学振動反応が迅速で安定かつ長期間にわたって生起する新現象を見いだした。この現象をゲルに組み込むことによって自律性ソフトマテリアルを実現して来ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進で特に力点を置くテーマは、①LCST型相分離する系に不可欠な構造形成性溶媒和の構造化学的・熱力学的アプローチ、②イオン液体(IL)の種類を非プロトン性ILからプロトン性IL、溶媒和ILへと広げ検討を進める。③高分子の種類を、合成高分子のみならず生体高分子(タンパク質)に広げる。また、研究推進体制として力点を置く事柄は、①国際共同研究を広げる。特に現在も共同しているMinnesota大、LodgeグループとはIL/ブロック共重合体系の固体構造について、またNewcastle大、Atkinグループとは、ブロック共重合体の固体|イオン液体界面の構造について共同研究を進める。② 国内共同研究を進める。これまでにも共同している東大物性研、柴山グループとは、IL中の高分子の溶存状態を調べるために散乱分析を、横浜国大、川村グループとは、IL中のタンパクの凝集構造に関する研究を進める。それぞれの項目に関する今後の方針は以下の通りである。 (1) 高分子のイオン液体中への溶解現象の理解:高分子の種類を非イオン性高分子から高分子電解質に、さらにタンパク質に広げる。特にタンパク質に関しては、その凝集構造変化に与えるIL添加の効果を明らかにする。 (2) 温度によるソフトマテリアルの自律性発現:イオン液体の構造をプロトン性IL、溶媒和ILとしたときの、高分子の特異的溶解性を検討する。 (3) 光によるソフトマテリアルの自律性発現:光治癒材料としての特性を、治癒時間の短縮、ゾルゲル転移に伴う緩和時間差の増大、光成形の可能性、後架橋によるゲルの強靭化などの観点から検討する。同時に、光応答性イオン液体中での高分子の相挙動を明らかにして行く。 (4) 化学反応によるソフトマテリアルの自律性発現:IL中のBZ反応をゲル、ブロック共重合体などに組み込むことによって、自律性ソフトマテリアルを実現して行く。
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