研究課題
1. 多機能インキュベータの開発:前年度までに作製した大容量多機能インキュベータの他、顕微鏡観察用の多機能インキュベータ、pHの変化を抑えより高い圧力印加を目指した液圧方式多機能インキュベータ、周期加圧下・大気圧下の同時観察を可能とするオンチップ多機能インキュベータの各種を開発した。2. 細胞組織の力学特性評価:新生児ラットの大動脈平滑筋細胞を用いてCell Exercise細胞培養による10層の細胞シートを作製し、これをチューブ状に丸めて引っ張り試験を行った。得られた応力-歪曲線からラットの胸部大動脈と同程度の弾性係数を持つことがわかった。また、ヒト臍帯由来の平滑筋細胞で作製した細胞シートの引っ張り試験も行った。3. 遺伝子発現計測および評価:周期加圧の振幅と周期の最適条件を、弾性繊維等の遺伝子発現に基いて評価した。その結果、Fibronectin、Fibrillin-1、Fibrillin-2、Fibulin-4、Lysyl oxidaseが加圧培養により多く遺伝子発現していることが明らかになり、最適な加圧パラメータが高圧値180 kPa、低圧値110 kPa、周期500 sであることが見出された。4. ラットへの人工細胞シート移植:新生児ラットの大動脈由来の平滑筋を用いたCell Exercise細胞培養により、実際のラットの胸部大動脈に匹敵する弾性係数を持つ10層細胞シートの動脈グラフトを作製し、ラットの体内への移植までを行うことができた。また、移植から2.5ヶ月後の開腹により、移植先のラットの大動脈由来の細胞と十分に接合し、大動脈の血圧にも耐え、動脈として機能していることが確認できた。
1: 当初の計画以上に進展している
Cell Exercise細胞培養における最適な加圧パラメータを抑え、10層積層してパッチ状、チューブ状に成形した細胞シートの破断応力を測定したところ、実際のラット胸部の大動脈に匹敵する破断耐性をもつことがわかった。これは動脈グラフト作製に向けた最も重要な実験結果となった。さらに、上記の結果が後押しとなり、ラットの大動脈切除部位に外科手術で移植したところ、グラフトは大動脈の血圧にも耐え、2.5ヶ月生き続けることを確認できた。開腹すると、ラット本来の大動脈と綺麗に接合していた。この結果は、in vitroにおける平滑筋細胞の自己組織化で作製した大動脈グラフトとしては初めてのものである。これらの結果を研究課題がスタートしてから1年9ヶ月で得たことは、当初の想定を大きく超えた進展であった。ラットではあるが、現時点でin vivoの大動脈での使用に耐えることを実証した点は、本研究課題の最大の目標である再生医療応用に対し、極めて重要な成果となった。また、当初の研究計画では、平成28年度までに湿度・温度・CO2濃度を適切に制御しつつ圧力印加パターンが可変な多機能インキュベータを構築することが目標であった。実際には、この多機能インキュベータを構築できただけでなく、さらに必要となった各種機能を実装した3種(顕微鏡観察方式、液圧方式、オンチップ方式)の多機能インキュベータの開発にも取り掛かることができた。
今後はヒト平滑筋細胞を用いた、しなやかで強靭な細胞シートの作製を目指す。また、これを用いてラット平滑筋細胞の場合と同様のパッチ状グラフト、チューブ状グラフトの作製を行う。現状でヒト平滑筋細胞を用いた場合に細胞シートの強度が足りないのは、ヒト平滑筋が臍帯由来であることに起因していると考えている。この仮説の検証に向け、ヒト平滑筋細胞を用いたより広範囲の加圧パラメータ探索や、ハイスピードカメラを用いた引っ張り試験における細胞チューブ破断時の詳細なメカニズムの可視化実験を行いたいと考えている。さらに、平滑筋細胞シートによる動脈グラフトの作製にとどまらず、心筋細胞等を対象としたCell Exercise細胞ばいようを行いたい。これにより、心臓に移植可能な細胞シートパッチ等への応用可能性を探っていく予定である。
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