研究課題
(1)ラットからヒト平滑筋細胞へ:本研究の究極の目標はヒトの平滑筋細胞を用いて弾力性の高い細胞シートを作製し、その力学特性をバイオ視点で考察することである。そのためには新生児ラットの大動脈ではなく、ヒト臍帯から平滑筋細胞を取得する方法について検討し、臍帯血管動脈から取得する方法を編み出し、この部位から得られた平滑筋細胞から細胞シートを製作する方法が弾力性という意味では一番いい方法であることを突き止めた。(2)培養液:細胞培養液のpHは細胞シートの作製に重要な役目を担う。今年度はCTの原理を応用した3次元空間分布型pH計測器を開発し、基本動作原理を確認した。さらに培養皿の代わりに複数のチャンバーを内蔵し、それぞれのチャンバー内培養液濃度可変型On-Chipチャンバーを開発し、その基本原理についても確認した。(3)細胞シート強度試験:細胞シートの強度試験は大きく分けて2種類考えられる。細胞シートを両端から引っ張り、応力とひずみの関係を調べる方法、もう一つは細胞シート表面を押し付けて凹み具合を調べ、押し付け力と凹み量から細胞シート強度を見積もる方法である。いずれの方法にも一長一短がある中で、両手法について細胞シートを使って実験を行い、両者の特徴を明らかにした。(4)平滑筋細胞以外の細胞にチャレンジ:生体において心筋細胞は様々な力学的負荷に曝されており、圧力負荷は心肥大や心不全発症の環境因子として重要である。そこで、力学的圧負荷の培養心筋細胞における影響を検討するため、圧負荷の条件検討を行い、最終的に圧負荷条件として、1分毎に100 kPaと300 kPaで8時間、圧負荷をかけることとした。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)多機能インキュベータの構築:湿度・温度・CO2濃度適切に制御しつつ圧力印加パターンが可変な多機能インキュベータを構築するという課題については、既存のインキュベータとコンピュータ制御型圧力印加システムの統合により、2016年度までにすでにミッションは完了している。現状では、細胞培養器を組み込み、かつタイムラプス観察機能を備えたOn-Chip Cell型多機能インキュベータチップの基本設計構想に取り組んでいる。(当初計画通り)(2)Cell Exercise細胞培養における最適加圧パラメータ探索:圧力容器許容範囲内で、平滑筋細胞を使って、加圧周期、最低圧力、最高圧力を変化させて全探索を行った範囲では、周波数0.002Hz、最低圧力110kPa、最大圧力180kPaの組み合わせで、最も弾力性の高い細胞シートを作製することができることを確認済。(当初計画通り)(3)細胞シート強度試験:細胞シートの強度試験は大きく分けて2種類考えられる。細胞シートを両端から引っ張り、応力とひずみの関係を調べる方法、もう一つは細胞シート表面を押し付けて凹み具合を調べ、押し付け力と凹み量から細胞シート強度を見積もる方法である。両手法について細胞シートを使って実験を行い、その特徴を明らかにしている。(当初計画通り)(4)細胞シートの動物移植:Cell Exercise細胞培養により10層積層して製作した細胞シートをパッチ状、チューブ状に成形し、ラットの大動脈切除部位に外科手術で移植したところ、グラフトは大動脈の血圧にも耐え、2.5ヶ月生き続けることを確認している。本研究課題の最大の目標である再生医療応用に対し、極めて重要な成果となっている。(当初計画想定以上の結果)このようにすべての当初課題に対して、順調に進んでいるか、想定以上の結果が得られているため当初計画想定以上の結果とした。
(1)多機能インキュベータの構築:チップ内に細胞培養器を組み込み、かつタイムラプス観察機能を備えたOn-Chip Cell Incubatorの設計・試作を行い、平滑筋細胞を用いて実験を行う。具体的にはマイクロチャンバを備えたマイクロ流路を2つ並列に配置した流路系をOn-Chip内に組み込み、両者に平滑筋細胞を播種した状態で、一方の流路は一定圧力、もう一方の流路はこれまでに得られた最適加圧条件を加え、顕微鏡で同時タイムラプス観察を行い、Cell Exercise時と一定圧力下での平滑筋細胞の振る舞いを観察する。On-Chip Cell Incubatorの最大の利点は、周期圧力を加えるか、一定圧力にするか以外はすべて同一条件で実験を行うことができるため、細胞の個体差や細胞の成長時間の差等の影響を完全に排除できる点に留意されたい。(2)Cell Exercise細胞培養における最適加圧パラメータ探索:平滑筋細胞以外での最適加圧パラメータを調べるため、心筋細胞に適用可能なインキュベータに対して、培養心筋細胞を用いて、本年度の予備実験で確認された1分毎に100 kPaと300 kPaで交互に8時間圧負荷をかけてBNP遺伝子発現を検討する。さらに種々の受容体遮断薬を使用して、圧負荷により如何なるメカニズムでBNP遺伝子が制御されるかについて検討する。(3)細胞シート強度試験:細胞シートを両端から引っ張り、応力とひずみの関係を調べる方法を用いて、Cell Exerciseによって製作されたヒトの平滑筋細胞シートの引っ張り破断応力と、ヒト動脈の引っ張り破断応力を比較する。この実験は、将来的にCell Exerciseによって製作された細胞シートが、ヒトへの動脈移植に使われる可能性があるかどうかを決める上で、重要な指標になり得る。
細胞変形能、特に赤血球の変形能は、疾患との関係が深い。マイクロ流路内に組み込まれた狭窄部内の赤血球を高速カメラで実時間追跡しながら、高速アクチュエータで操作できるシステム一式をハイデルベルグ大学に持ち込んで、赤血球の回復特性を調べる実験を行った。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 1件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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