研究課題/領域番号 |
15H05763
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
荒井 滋久 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30151137)
|
研究分担者 |
松尾 慎治 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, ナノフォトニクスセンタ, 上席特別研究員 (00590473)
硴塚 孝明 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, ナノフォトニクスセンタ, 主任研究員 (20522345)
西山 伸彦 東京工業大学, 工学院, 准教授 (80447531)
雨宮 智宏 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (80551275)
|
研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2019-03-31
|
キーワード | 光デバイス / 光回路 / 半導体薄膜光デバイス / 低消費電力光デバイス / 光配線 |
研究実績の概要 |
本研究は、将来的なCMOS基板上高速光通信の実現に向けて、研究代表者が提案してきた極低消費電力動作可能な薄膜半導体レーザを中心とする薄膜光回路の構築を目的としており、具体的には、(1) 小型・低消費電力・高効率を達成しうるレーザ、光検出器、導波路の設計の明確化と実現、(2) 要素デバイスをつなぎ合わせたシリコン基板上光集積回路の実現と低消費電力伝送の実証、および(3) CMOS基板上への光回路集積方法、接続方法の確立と基本的な信号伝送の実現を目指している。平成28年度では、前項で掲げた3つの研究目標の中で(1)および(2)に注力した。 (1)については、まず薄膜レーザの低電流・高効率動作を目的として、分布反射型構造の導入を行うと共に、これまでに実現してきた薄膜DFBレーザの特性上の問題点の要因解明に注力した。特に、DBR回折格子の調整とp-InPキャップ層の不純物濃度の低減に加えて、p-InPサイドクラッド層の不純物濃度の低減を行った結果、DFB領域長32 µm、DBR領域長50 µmの素子において、しきい値電流0.21 mA(しきい値電流密度820A/cm2)、前方外部微分量子効率32%、微分抵抗880 Ωが得られ、低しきい値電流かつ高い外部微分量子効率を両立することに成功した。 また、薄膜受光器に関しては、小型化・高感度化を目的として、スローライト構造の導入を提案し、素子長および周波数帯域について理論解析を行った。その結果、8列以上の空孔列があれば散乱損失が十分に抑えられ、素子長は5.5 µmまで短縮可能であることが分かった。 (2)については、各素子単体の低電流・高効率動作に加えて、実際に「半導体薄膜レーザ」「光導波路」および「PIN型薄膜受光器」を集積した光リンクを作製し、3dB帯域11.3 GHzと伝送速度10 Gbit/sでの信号伝送を得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オンチップ光配線用光源には、低消費電力動作が要求され、許容されるエネルギーとして100 fJ/bit以下という試算がなされている。これは、「10Gbps動作時において消費電力は1mW以下」という要求に相当する。さらに、GaInAs PINフォトダイオードの10 Gbps信号に対するビット誤り率10のマイナス9乗以下となる最小平均受信感度を-13 dBm(0.05 mW)、素子間のリンクロスを5 dBと仮定すると、光源の光出力は0.16 mW以上が要求される。 本研究では、その要求を満たす光源として、従来の薄膜DFBレーザの後方に分布ブラッグ反射鏡(DBR)を集積した薄膜分布反射型レーザを提案し、室温連続動作を実現した。DFB領域長32 µm、DBR領域長50 µmの素子において、しきい値電流210 µA、前端面側光出力に対する外部微分量子効率32%、それに対する最大電力変換効率12%という従来にない低しきい値電流動作かつ高効率動作を実現した。バイアス電流1 mA時に15 Gbit/sの高速変調可能性変調時のエネルギーコスト128 fJ/bitが得られており、当初目標に迫る動作を実現した。 また、スローライト効果を用いた超小型フォトニック結晶型薄膜受光器の設計も併せて行い、群速度約35のフォトニック結晶導波路構造を用いることで, 5.5 µm以下の吸収長で1550 nm帯の光に対して90%以上の吸収効率が得られることを明らかにした。 最後に、半導体薄膜DFBレーザとPIN-受光器との集積を実現した。作製した光リンク全体の小信号応答を測定した結果、3dB帯域11.3 GHzが得られた。緩和振動周波数から求めたレーザの変調効率は7.2 GHz/mA1/2であった。10 Gbit/s、NRZ信号を光リンクで伝送し、適当なアイ開口とBER = 6 × 10のマイナス7乗を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
10-100 fJ/bitという要求電力に応えるためには、光配線において必要とされる各種素子の性能向上が必須となる。例えば、「光源」においては消費電力の低減が、「光伝送路」については低損失化が、「受光器」については受光感度の向上が必要不可欠となる。現在までに前者二つは要求仕様を満たすことに成功しており、受光器こそが実用化へ向けて最後に残った課題となっている。平成29年度の前半においては、分担者の松尾慎治・硴塚孝明(NTT)、雨宮智宏(東工大)が、それぞれ別のアプローチで半導体薄膜受光器の作製・評価を行い、それらの結果から最終的に採用する構造を決定する予定である。 平成29年度半ばより、全ての素子の集積化を行う。まず、光源の薄膜DRレーザおよび伝送路については、従来と同じ構造をベースとしたものを使用する。薄膜受光器は、前述のとおりNTTおよび東工大の2グループが作製した素子から特性に優れるものを採用する。測定が多チャンネルとなるため、現有するプローブステーションの改造や測定装置を購入する予定である。測定はまず静特性を中心に評価する。特に集積化によって回路内の迷光や反射戻り光によってレーザ特性が劣化、フォトダイオードが正しい信号を受光できない可能性があり、相対強度雑音等の雑音特性も含めて測定する予定である。雑音特性の劣化が見られた際は、結合部の設計、再成長条件やデバイス配置の再検討を行う。 平成29年度から30年度にかけて、徐々に測定を動特性の評価中心に移していく。エネルギーコストの観点からの検討を行い最終的には10 Gbps以上の速度で30 fJ/bit以下のエネルギーコストを有するシリコン基板上光回路を実現することを目標として進める。また、最終年度の平成30年度にはCMOS回路基板上の光回路形成を目指し、メンブレン構造とSOI基板を貫通孔で接続するTSVの研究を行う。
|