研究実績の概要 |
本研究の目的は、バルクナノメタルが示す種々の特異な力学現象、すなわち、(1)金属・合金の種類によらず普遍的に現れる降伏点降下現象。(2) Hall-Petch関係におけるextra-hardening、(3)加工軟化と焼鈍硬化、(4)室温におけるひずみ速度依存変形、(5)巨大なバウシンガー効果、(6)六方晶における不活性すべり系の活性化、 (7)変形双晶および変形誘起マルテンサイト変態の安定性の顕著な変化、を統一的に理解することである。得られる実験的成果をもとに、高い強度と大きな延性・靭性を具備する次世代構造材料としてのバルクナノメタル創製のための材料設計原理を確立することを目標とした。 京都大学、J-PARC、SPring-8の3機関が連携して課題の遂行を行なった。粒径その他のナノ・ミクロ組織を精密に制御した様々なバルクナノメタル試料を作製し、それらに対する中性子または放射光を用いた引張試験中その場回折実験やデジタル画像相関法(DIC)による局所ひずみ解析といった先端的実験手法を駆使して研究を推進した。 当初予定していた7種類の特異力学現象の全てについて、発現メカニズムを明らかにすることができた。そして特異現象(1), (2), (3), (4), (6), (7) に関しては、共通する原因として、バルクナノメタル中の非常に小さな体積を有する各結晶粒内における転位活動の制限がきっかけとなっていることを解明した。また特異現象(5)についても、上記の理由と関連して生じる大きな内部応力が原因であることが明らかになった。研究中に見出された、バルクナノメタルの変形挙動に及ぼす合金元素の影響、鋼の水素脆性の結晶粒超微細化による抑制といった特異現象の理解も進み、得られた成果を総合して強度と延性を両立したバルクナノメタルの作製の指針が見出されるなど、当初計画以上の成果が得られた。
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