研究実績の概要 |
申請者らは、60ppm以下の極微量の固溶炭素の有無によって結晶粒微細化強化係数が大きく変化し、同じ粒経でも純度に応じて降伏強度が変動することを最近明らかにした。これは、鉄鋼材料の分野では従来の常識を覆す発見である。また、鉄鋼材料にはMn,Si,Ni,Cr,Pなどの置換型元素が必要に応じて添加されるが、結晶粒微細化強化係数に及ぼす置換型合金元素の影響について、Ni、Si、Mnはそれを高め、CrやPはほとんど影響を及ぼさないことが分かった。 多結晶金属の降伏は、粒内の転位源から生み出された転位が粒界に堆積し、粒界に大きな応力集中が起こって粒界から新たな転位が生み出されることによって起こると考えられてきた(Pile-upモデル)。しかしながら、pile-upモデルの妥当性を理論的に検証した例はないため、分子動力学を応用してその妥当性を検討した。計算には、粒界と転位の相互作用を計算するのに十分な大きさのbcc結晶を設定し、その中に結晶方位差が17°の傾角粒界を導入した。そして、粒界に垂直なすべり面上に4つの刃状転位を導入し、せん断応力を付与して粒界近傍の変化を観察した。その結果、負荷応力が2GPaに達した段階で不連続な応力低下が起こり、その時点で粒界から新たに転位が生み出されていることが確認できた。粒界に転位が堆積すると粒界に応力集中が起こることが知られており、本研究では、粒界から転位を生み出すために必要な応力(臨界粒界強度;τ*)を計算により求めた。その結果、転位が堆積した粒界で極めて大きなせん断応力が発生し、粒界から離れるにつれてその値が連続的に低下する様子が確認できた。この例では、粒界でのせん断応力の大きさは約8.6GPaと見積もられた。完全結晶から転位を生み出すのに必要なせん断応力は約13GPaであり、本研究結果は、粒界から転位を生み出すことが如何に困難かを示唆している。
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