研究課題
本年度は,太平洋広域および南鳥島周辺海域と陸上付加体から採取された「海の鉱物資源」710 試料について,粉末X線回折(XRD),蛍光X線分析装置(XRF)および誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いた基礎記載・全岩化学分析を行い,地球化学データセットの構築につとめた.また,MC-ICP-MSを用いたOs同位体比組成分析やイクチオリス層序による堆積物コアの年代決定も行った.さらに,レアアース泥の選鉱技術や経済性評価についても検討を行った.その結果,以下のような成果が得られた.(1)南鳥島南方250kmの有望海域におけるレアアース資源分布を可視化した結果,その資源量は1600万トンを超える莫大なものであることが分かった.また,ハイドロサイクロンによる粒径分離実験を行った結果,総レアアース濃度を最大で2.6倍にまで高めることに成功した.以上の結果はScientific Reports誌に掲載され,国内外で大きく報道された.さらに,南鳥島レアアース泥は次世代の環境・エネルギー技術の鍵を握るScに関しても非常に大きな資源ポテンシャルを有することが初めて定量的に示された.(2)より簡便な選鉱手法である水簸の有効性を検討した結果,水簸を多段階で行うことで,総レアアース濃度を3倍以上に濃縮することに成功した.(3)南鳥島レアアース泥開発の経済性評価を行った結果,採泥方法の最適化や,上記のような選鉱技術の高効率化によって,経済性を満たすことができることを示した.(4)北太平洋の広域から採取されたレアアース泥について化学組成及び堆積年代を検討した結果,化学組成で特徴づけられる共通の層構造が存在することと,レアアース濃度ピークが形成された時代に共通性がみられることが分かり,高品位なレアアース泥の形成場に関する時空間的な制約条件を明らかにした.
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は「海の鉱物資源」710試料の基礎記載・全岩化学分析・Os同位体組成分析を行い,「海の鉱物資源」の基礎的データの収集および解析は順調に進展している.その結果,南鳥島EEZ内において,有望海域 (約2500 km2) のレアアース資源分布を初めて可視化することに成功した.特に有望海域の北西部に極めてレアアース濃度の高いエリア(約105 km2)が存在することを確認し,このエリアだけでも資源量は約120万トンに達する.また,有望海域全体では莫大な資源ポテンシャルを持つことも明らかとなった.さらに我々は,レアアースが含まれる生物源アパタイトが大きな粒径を持つことに着目して,ハイドロサイクロンを用いた粒径分離実験を行い,総レアアース濃度を最大で2.6倍にまで高めることに成功した.今後,生物源アパタイトのみを分離する技術が確立されれば,品位をさらに高められる可能性もある.また,海上に引き揚げる泥の重量を大幅に減らすことも可能なため,海底で粒径選鉱を行うことで非常に効率的かつ経済性の高いレアアース泥開発を行うことが可能となる.このような技術をシステムに組み込むことで,開発プロジェクトの収益を大きく向上できるものと期待される.この研究成果はScientific Reports誌に掲載され,国内外のテレビや新聞で大きく報道された.また,これらをはじめとした我々の研究成果は高く評価され,日本経済新聞社が主催する「2018年度日経地球環境技術賞 最優秀賞」を受賞した.さらに,レアアース泥の調査や開発技術の推進は,我が国の主要施策である「第3期海洋基本計画」にも明記され,国家プロジェクトである「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期」において研究開発が開始されるなど,国を挙げての取り組みも進行中である.以上のことから,本研究は当初計画以上に進展しているといえる.
最終年度である2019年度も,当初の研究計画・方法を踏襲し,研究を進展させていく予定である.これまでに蓄積した「海の鉱物資源」試料の基礎記載・全岩化学分析データと,レアアース泥・マンガンノジュール・マンガンクラストのOs同位体比年代について解析をすすめ,地球表層環境の変動とこれらの海底鉱物資源の生成についてのリンケージの解明を行っていく.また,陸の試料についても引き続き試料採取・基礎記載・化学分析を行い,年代決定および成因解明を進めることで,これら「海の鉱物資源」生成の支配則の全容についての解明を行う.また,それと並行して,蓄積した鉱物学的・地球化学的データを活用することで,南鳥島レアアース泥の開発に関わる選鉱や製錬技術の検討も進め,より効率的・経済的な開発システムを構築し,精緻な経済性評価を行う予定である.
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (3件)
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