研究課題
H28年度は引き続き、以下の2つの目標の達成を進めた。目標1 補体ファミリー分子によるシナプス形成・可塑性制御機構の解明補体ファミリー分子Cbln1はシナプス前部のneurexin (Nrx)とシナプス後部のδ2型グルタミン酸受容体(GluD2)に結合することによって、小脳における平行線維-プルキンエ細胞シナプスを強力に形成・維持する。しかし、Cbln1は6量体、GluD2は4量体、Nrxは1量体と、それぞれの分子の対称性が大きく異なることから、Nrx-Cbln1-GluD2が一体どのような構造の複合体をどのようにして形成するのかは不明であった。この点について構造生物学的に検討を進め、これらの分子は2 Nrx (1量体) : 2 Cbln1 (6量体) : 1 GluD2 (4量体)という比にて結合し、巧妙な仕組みによって強固な三者複合体を形成することを明らかにしScience誌に報告した。一方、海馬歯状回顆粒細胞に発現する補体ファミリー分子C1ql2およびC1ql3は顆粒細胞軸索(苔状線維)から分泌され、カイニン酸型グルタミン酸受容体受容体(KAR)に直接結合することによって、CA3錐体細胞のシナプス後部にKARを集積させることを発見した。実際に、C1ql2とC1ql3を欠損したマウスの海馬では、KARがシナプスに組み込まれず、てんかんを人工的に誘導する刺激を与えてもKARに由来するてんかん発作が起きにくくなることも分かりはNeuron誌に報告した。目標2 神経活動・代謝・炎症による補体ファミリー分子の分泌調節機構の解明これまでの予備実験の結果から、短期的な神経活動によってCbln1分泌が亢進することが分かった。本年度もCbln1分泌過程の分子機構の解明を進め、論文として投稿準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
小脳平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおいて、平行線維から分泌されるCbln1がシナプス前部の受容体Nrx、シナプス後部の受容体GluD2とどのようにしてNrx-Cbln1-GluD2三者複合体を形成するのかを構造生物学的に明らかにすることに初めて成功しScience誌に発表できた。また海馬苔状線維ーCA3錐体細胞シナプスにおいて、苔状線維から分泌されるC1ql2/3がシナプス後部のカイニン酸受容体を集積させることを初めて明らかにしNeuron誌に発表した。一連の成果は国際的な総説誌であるTrends in Neuroscience誌やCurrent Topics in Neurobiologyにinvited reviewとして報告した。
H28年度に引き続き、以下の2つの目標の達成を目指すとともに目標3を開始する。[目標1 補体ファミリー分子によるシナプス形成・可塑性制御機構の解明] 小脳平行線維ープルキンエ細胞シナプスにおけるNrx-Cbln1-GluD2複合体と、海馬苔状線維―CA3錐体細胞シナプスにおけるNrx-C1ql2/3-KAR複合体との比較によって、シナプス後部におけるグルタミン酸受容体の機能がどのようにシナプス前部によって制御されるのか、またNrxへの補体ファミリー分子の結合によってシナプス前部の機能がどのように制御されるのか、といった「一般原理」の解明を目指す。さらに、小脳登上線維―プルキンエ細胞シナプスにおいては登上線維が分泌するC1ql1がプルキンエ細胞に発現するBai3に結合することによって、このシナプスの成熟とともに平行線維におけるシナプス可塑性LTDを制御する。そこでGタンパク質共役受容体としてのBai3の下流シグナリングの解明を通してC1ql1-Bai3によるシナプス制御機構を明らかにする。[目標2 神経活動・代謝・炎症による補体ファミリー分子の分泌調節機構の解明] 引き続きCbln1分泌過程の分子機構の解明を進めて論文化する。また、C1ql2/3遺伝子欠損マウスにおける摂食量・体重・糖代謝を検討し、C1ql2/3による代謝調節制御機構の解明を進める。[目標3 補体ファミリー分子の操作による神経回路と個体行動の制御] CblnやC1qlファミリー分子とそれぞれの受容体との結晶構造の情報を活用し、これらの構造を元にして小分子タンパク質を設計することによって、特異的なシナプスシグナリングの制御を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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