研究課題
1) TGF-β刺激により発現が誘導され、肺腺がん、乳がん、スキルス胃がんなどの予後不良因子として働く因子としてTUFT1を見出した。TUFT1発現の抑制によりがん細胞運動能・増殖能やマウス移植モデルでの腫瘍形成能・転移能が低下した。TUFT1結合タンパクとしてRabファミリーのGAPであるRABGAP1を見出した。TUFT1はRABGAP1のGAP活性を上昇させることでmTORシグナルを活性化すると考えられた。2) TGF-βのIII型受容体TGFBR3 (Betaglycan)の役割を腎臓がん細胞で検討した。TGFBR3の発現は腎臓がん細胞で低下しており、予後不良との関連、腫瘍形成能と転移能の上昇が見られた。TGFBR3はALDH1陽性のがん幹細胞の減少、TGF-βシグナルに依存しないFAK-PI3K経路に関連した細胞運動能の低下と関連することが明らかとなった。3) がん転移の観察方法として、マウスモデルにおいて臓器透明化を応用し、1細胞レベルでの解析をin vivoで観察できる系を確立した。蛍光タンパク質を安定的に発現したがん細胞をマウスへ移植し、マウス全身もしくは摘出した臓器を透明化することで、マウス全身でのがん細胞の局在を検出すると同時に、肺への転移を1細胞レベルで可視化することに成功した。肺腺がん細胞A549をマウス尾静脈から投与して転移形成能を経時的に確認したところ、TGF-βで処理したA549細胞はマウスに投与24時間後における肺への集積が非処理細胞に比べて有意に増加していた。さらに投与14日後の転移巣形成もTGF-βで処理したA549細胞は非処理細胞に比べて有意に亢進していた。以上からがん転移のプロセスにおいて、TGF-β はこれまで知られていた血管内侵入に加えて、遠隔臓器の血管での生着と血管外浸出にも寄与していることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題の進行過程で、東京大学医学系研究科上田泰己グループが開発を続けてきた組織透明化の技術が進展し、成獣マウスを用いて個体および臓器レベルで組織を透明化し解析することが可能となった。このため種々のがん細胞を用いた転移モデルにおいて、透明化技術を用いて解析したところ、転移したがん細胞を1細胞レベルで測定することが可能となるという、当初予想していなかった興味深い技術を応用することが可能となった。EMTは細胞の運動能・浸潤能の亢進、線維化の促進、がん幹細胞性の維持、抗がん剤抵抗性の獲得など様々な作用と密接に関わると報告されている。TGF-βはEMTを誘導することでこうした作用を発揮するが、組織透明化技術を用いてがん転移機構を検討した結果、遠隔臓器における血管内でのがん細胞の生存や血管外浸出にも関与していることが強く示唆され、転移における複数のステップでTGF-βが重要な役割を果たしているという、これまで知られていなかったTGF-βの新たな作用を明らかにすることができた。
当初の計画以上に研究が進行している。新たな研究課題を加えつつ、計画に沿って研究を行う。これまでの細胞生物学的手法、分子病理学的手法と次世代シーケンサーを用いた解析に加えて、組織透明化技術を発展させて解析を行うことで、TGF-βのがん転移における役割がさらに明らかになると期待できる。
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