研究課題
(1)TGF-β-Smadのダイナミックな転写調節機構の解明アクチビンはTGF-βと類似の作用を発揮すると考えられているが、実際にはTGF-βとは異なる作用を発揮することが多い。Palbociclib などのCDK4/6阻害薬はホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんの治療薬として注目されている。我々はPalbociclibはアクチビンと相加的に細胞増殖を抑制することを見出した。またChIPシーケンスによりPalbociclibがSmad2のDNAへの結合を増強することを示した。さらにPalbociclibによるアクチビン-Smadシグナルの増強にはSmad2の標的遺伝子としてCCNG2が重要であることを見出し、Palbociclibの乳がんにおける新たな作用機構を明らかにした。(2) TGF-βによるEMTの調節機構と多彩な表現型の解析TGF-βの長期刺激ではEMT表現型を誘導し安定化する。安定化EMTでは幹細胞様の表現型と抗がん剤に対する耐性の亢進がみられた。乳がん細胞を用いた実験では、安定化EMTではmTORシグナルの活性化がみられ、新規mTOR阻害剤の投与により幹細胞様変化や足場非依存性増殖、抗がん剤耐性の抑制などがみられた。がん転移巣の形成においては短期刺激に比べて長期刺激の方が転移巣形成までに時間を要することが明らかとなり、転移巣の形成にはMETが起こることが重要であることを示唆する所見を得た。(3)がんの浸潤・転移を促進するTGF-βの多彩な作用の解明組織透明化技術を用いてがん細胞を可視化し、TGF-βによってEMTが誘導されたがん細胞は、自身の細胞の浸潤能を高めるほか、周囲のがん細胞の悪性形質も亢進させることを示唆する結果を得た。また分裂中のがん細胞を特異的レポーター遺伝子を用いて可視化し、がん転移巣における増殖・静止期の細胞の局在を検討した。
1: 当初の計画以上に進展している
組織透明化技術の導入により、研究開始時には予想しなかった1細胞レベルでのがんの浸潤・転移機構の解析が可能となった。これによりTGF-βによってEMTが誘導されたがん細胞は、自身の細胞の浸潤能を高めるほか、周囲のがん細胞の悪性形質の亢進にも寄与することを示唆する結果を得たことは当初予想しなかった成果である。さらに国際共同研究でTGF-βによる長期刺激により安定化EMTという表現型を確認した。安定化EMTではTGF-β-Smadシグナルに加えてmTORシグナルの重要性が明らかとなり、新規mTOR阻害剤が効果を示したことは当初予想しなかった成果である。
最終年度にあたることから計画に沿って研究を継続し成果を取りまとめることを第一の目標とする。一方で、組織透明化技術を用いた実験などではこれまで予期しなかった成果も見られることから、さらに大きな発展を目指して研究を行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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