研究課題/領域番号 |
15H05775
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤吉 好則 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 特任教授 (80142298)
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研究分担者 |
大嶋 篤典 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 准教授 (80456847)
阿部 一啓 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 助教 (60596188)
入江 克雅 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 助教 (20415087)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 構造生理学 / チャネル / 電子線結晶学 / 単粒子解析 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
電子線結晶学を用いて、水チャネルAQP4とその阻害剤AZAとの複合体の構造を解析して、論文として発表した(Microscopy, 65, 177-84 (2016))。この結晶は2枚の膜が接着して形成されており、阻害剤AZAはAQP4の接着能を弱めて結晶性を悪くするために、論文発表した分解能は5Åと低かったが、解析分解能を3Åへ向上させることができた。また、電位感受性Na+チャネルの構造解析や、阻害剤との相互作用機構を解析した。 無脊椎動物由来のギャップ結合チャネル、イネキシンの2次元結晶を作製し、構造を解析した結果、脊椎動物のギャップ結合、コネキシンは6量体でヘミチャネルを形成するが、イネキシンは8量体でヘミチャネルを形成することを解明した。さらに、イネキシンもプラグ様密度がある事も明らかになったので、論文として発表した(JMB, 428, 1227-36 (2016))。イネキシンのN末端側を除いた場合にのみ、2次元結晶化に成功したが、インタクトなイネキシンでは結晶を作製することはできていない。しかし、単粒子解析法では、結晶を作製できなかった生理学的に機能しているイネキシンの高分解能の構造解析が進んだ。 これまでは、電子線結晶学を用いた構造生理学的研究が中心的研究所法であったが、結晶を作製しないで構造解析ができる単粒子解析法や、膜タンパク質を脂質膜中で構造解析するIBSA法の研究を進めた結果、低温電子顕微鏡用試料作製法が極めて重要であることが明らかになってきた。すなわち、膜タンパク質の単粒子解析を行う場合に、通常の界面活性剤の中では6Åより高い分解能での解析は無理であることが確認された。この問題を解決する単粒子解析用試料作製法として、GraDeRと名付ける方法を開発して論文として発表した(Structure 23, 1769-75 (2015))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水チャネルの水分子は脂質膜の中で膜タンパク質が構造解析された場合のみ、分離して観察できることを明らかにしてきた。それゆえ、AQP4を脂質膜の中で構造解析する必要があるが、阻害剤AZAはAQP4の接着能を弱めて結晶性を悪くする。それでも効率の良い極低温電子顕微鏡システムを活用して、3Åより高い分解能で構造解析することに成功した。電位感受性Na+チャネルやNa+K+-ATPaseなどの構造と機能解析も順調に進捗している。 ギャップ結合チャネル、イネキシンの2次元結晶による構造解析結果から、脊椎動物のコネキシンは6量体でヘミチャネルを形成するが、イネキシンは8量体であることを疑問の余地なく証明し、イネキシンもコネキシン同様のプラグによるゲーティングを行っている可能性を示唆した。 これまでのところ、結晶学を用いた構造生理学的研究は順調に進捗しているが、さらに、結晶を作製しないでも構造解析ができる単粒子解析法においても世界を凌駕できる見通しができた。例えば、膜タンパク質の単粒子解析を行う場合に、界面活性剤が残っていると6Åより高い分解能での像の撮影は無理であることが確認された。この問題はamphipolsを用いて回避される例が報告されているが、適用できない例が多くみられる。それゆえ、単粒子解析用試料作製法として、GraDeRと名付ける方法を開発して、膜タンパク質の高分解能の構造解析を可能にした。具体的な例としては、イネキシンの単粒子解析法による構造解析結果を上げることができる。このイネキシンはイネキシン‐6のN末端側を除いた場合にのみ、2次元結晶化ができたが、インタクトなイネキシンでは結晶を作製することはできなかった。しかし、単粒子解析法では、生理的に機能しているイネキシンの高分解能の構造解析が順調に進んでいる。この様な単粒子解析法による研究成果は、当初の計画を超えて進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、当初の研究計画に従って研究を推進する予定であるが、単粒子解析法が強力であり、我々が保有している極低温電子顕微鏡は、安定で非常に高い分解能の像を撮影できることが確認できているので、電子線結晶学をさらに強化すると共に、単粒子解析法を強力に推進する予定である。また、その単粒子解析法の弱点を克服できるIBSA法を発展させることによって、膜タンパク質やその複合体の構造と機能の解析を進める予定である。 AQP4とその阻害剤AZAとの複合体の構造を3Åより高い分解能で構造解析する。 電位感受性Na+チャネルの構造と機能解析は順調に進捗しているので、主に結晶学的手法を用いて、研究を行う。 Na+K+-ATPaseとその阻害剤との複合体の構造解析も結晶学的手法を中心とするが、様々な手法を用いて構造解析研究を実施する。 イネキシンとコネキシンの類似性と相違点が明らかになってきたが、特に、ゲーティング機構に関係すると思われるN末端の構造は興味深い。それゆえ、インタクトなギャップ結合チャネルの構造解析が可能な単粒子解析法を用いて、高分解能の構造を解析する。イネキシンとコネキシンの両方の構造と機能の比較研究を行う。また、単粒子解析法を用いた膜タンパク質の構造解析は現状では、3.4Å程度が最高の分解能であるので、これを超えるような構造解析に挑戦したい。なお、単粒子解析法では膜タンパク質を脂質膜の中で構造解析することはできないので、この問題を解決して、しかも、結晶化を行わないで構造解析ができるIBSA法を発展させる。現在、科学研究費以外の開発費によって、IBSA法のデータを取得するための低温電子顕微鏡を開発している。この新たに開発予定の低温電子顕微鏡とIBSA法を用いた構造解析を、ギャップ結合チャネル、特にイネキシンについて行う予定である。
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