研究課題/領域番号 |
15H05776
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
西村 いくこ 甲南大学, 理工学部, 教授 (00241232)
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研究分担者 |
嶋田 知生 京都大学, 理学研究科, 講師 (20281587)
田村 謙太郎 京都大学, 理学研究科, 助教 (40378609)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / 細胞内膜系 / 小胞体 / 器官Straightening / ERボディ / 原形質流動 / 環境応答 / 虫害応答 |
研究実績の概要 |
細胞内膜系(主に小胞体)の動態から,植物の環境応答能力と虫害応答能力を解明することを目的として,下記の成果を得た. 1.環境応答調節を担うStraightening機構:新たな2つのStraightening制御因子の同定に成功した.第一の因子「オーキシン輸送体ABCB19」は,Straightening司令塔細胞の原形質流動とActin線維束配向の調節に必須であり,Actin-Myosin XI細胞骨格を介してStraighteningを制御していることが分かった.第二の因子「Myosin XI結合タンパク質MyoB receptors」は,オルガネラの原形質流動に貢献しており,Straightening機構における原形質流動の関与の可能性が浮上した. 2.虫害防御応答能力を支える忌避物質生産型防御機構:小胞体由来オルガネラERボディの主要構成成分 β-glucosidase はカラシ油配糖体(glucosinolates)を基質とすることが明らかとなった.ERボディ系が新規の虫害防御機構として働くことをオカダンゴムシの行動実験から証明した.植物由来忌避物質の昆虫に対する影響を評価する実験系を確立し,ERボディ系由来の忌避物質が昆虫の食欲を抑制することを明らかにした.また,植物は菌感染時に液胞膜と原形質膜を融合させて液胞内抗菌物質を細胞外に放出することを以前報告した.この膜融合にアダプタータンパク質複合体AP4が関与することを見出した. 3.新規の小胞体由来構造体(SEボディとLNPボディと命名した)を発見した.SEボディは,過剰なsterolsを無毒化して集積するという新しいsterolホメオスタシス系として注目される.一方,LNPボディは,小胞体分解系や品質管理に関わるという仮説を立てた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境応答調節を担うStraightening機構の研究では,Straightening能力低下を示す変異体を複数得ることができたことから,分子機構の解明に向けて研究を進めることができた.Straightening研究推進の大きな障害となったのは植物栽培室の問題である.研究代表者の移籍に伴い,実験材料のシロイヌナズナ突然変異体や形質転換体を京都大学から甲南大学の栽培室に移したところ,原因不明の深刻な植物の生育不良が起こった.Straightening研究では,長期間成長させた健全な植物体が必須となるが,突然変異体の確立とマーカーを導入した形質転換体の作製が困難となり,研究に若干の遅れが生じた.平成29年度は,植物栽培室の利用は断念して,人工培養機を新たに設置して対処したが,実験に必要な個体数の確保が難しい状態が続いた. 一方,虫害防御応答能力を支える忌避物質生産型防御機構の研究では,培地で生育させた幼植物体が実験対象であったことから,上記の植物栽培室の不具合の影響は受けることなく研究を進めることができた. 細胞内膜系が支える環境応答の研究として,細胞核がActin-Myosin XI-iによって細胞の底面中央に暗所定位するが,強光下では,紫外線によるDNA損傷を回避するためにが細胞側壁に移動することを報告してきた.この細胞核の定位運動の分子機構に関する知見も得ることができた. これまでに,植物の小胞体は特殊化した機能をもつオルガネラを誘導する能力をもつことを示してきた.上記のERボディはその一つであるが,今回,小胞体の動態解析から,新たな小胞体由来のオルガネラ(構造体)を発見することができた.上記の想定外の困難はあったものの,当初予想しなかった発見があったことを考え合わせて研究は順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2つの課題に,新たに発見した小胞体由来オルガネラ(構造体)の課題を追加して,細胞内膜系動態が支える植物の高次の機能解明を目指す. 1.環境応答調節を担うStraightening機構:上記の植物栽培問題の解決策として,培養器の台数を増やすとともに,京都大学の研究分担者の協力により実験植物体を確保する予定である.これまでに取得したStraighteningに必須な因子の欠損は,Straighteningの司令塔細胞(伸長中の繊維細胞)の原形質流動を顕著に抑制することがわかったことから,今後は,さらなるStraightening関連因子の同定を進め,それぞれの機能解析を通して,Straighteningにおける器官屈曲の感知(深部感覚)と屈性調節制御(細胞のブレーキ発動)の2つの素過程の分子機構の解明を目指す. 2.虫害防御応答能力を支える忌避物質生産型防御機構:当初の予定どおり研究は進められている.昨年度確立した「昆虫(ハエ)の嗅覚を介した摂食行動からER bodyの生理学的機能を解析する実験系」を駆使して,今後は,植物-昆虫間の化学的相互戦略の進化に視点を置き,毒性物質シアンを放出する祖先型化学防御機構からの化学防御の進化の理解を目指す. 3.小胞体由来の新規のオルガネラ(SEボディとLNPボディ)を発見したことを受けて,本年度以降は,これらのオルガネラの解析により,環境や生育段階に対応して様々なオルガネラを派生させる小胞体の能力の理解を通して,細胞内膜系動態が支える植物の環境応答能力の解明につなげたい.
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