研究課題
動物は多様な光受容タンパク質(オプシン)を用いて光を受容し、その情報を視覚や生体リズムの調節等の視覚以外(非視覚)の機能に利用している。本研究では、松果体の「UV光と緑色光の波長識別」と副松果体の「UV光受容」に注目し、オプシンが持つ分子特性と波長識別機能やUV光受容の役割との関係を明らかにすることを目的として、以下の解析を行った。波長識別に関わる解析:(1)視覚で働く視細胞と松果体の光受容細胞が電気的な応答を発生するメカニズムを比較するために、鍵となるcGMP分解酵素(PDE)を両者の間で比較することは重要である。そこで、松果体光受容細胞で機能しているPDEをRNAシークエンスにより解析し、複数種類のPDEを見出した。また、松果体オプシンの分光学的解析を詳細に行い、緑色感受性オプシンの詳細な性質を明らかにした。(2)波長識別の生理機能を理解するために、光受容細胞から脳内領域への波長識別情報の伝達について解析を試みた。GCaMPを光受容細胞、神経節細胞あるいは脳全体に発現させた個体を用いて、UVと緑色光の波長成分の変化に伴う、神経終末のカルシウム濃度変化(活動)を、多光子励起レーザー顕微鏡を用いて蛍光イメージングできる実験系を構築することができた。さらに、次年度以降の解析のために、脳全体にGCaMPを発現しているゼブラフィッシュにおいて、2種類の松果体オプシン遺伝子が破壊されている系統を作製した。副松果体の光受容細胞の役割の解析:ゼブラフィッシュ卵を、受精後直ちに、通常の光条件下、完全暗黒下、 UV光下で飼育し、手綱核で発現する左右性決定に関わる分子の発現量が、光条件の影響を受けるのかを検討した。その結果、上述の光条件において、左右の非対称性の大きな違いが生じないことが明らになった。
2: おおむね順調に進展している
松果体の波長識別を行う光受容細胞において、カルシウム感受性の蛍光タンパク質であるGCaMPが発現し、かつその細胞に含まれるオプシンの遺伝子を破壊した系統の確立を完了した。さらに、多光子顕微鏡によるカルシウムイメージングの実験系を確立し、次年度以降の研究の基礎を作ることができたため、概ね順調に進展していると判断した。
本年度作製したノックアウト個体を、本年度に確立した多光子顕微鏡を用いた解析方法を用いて解析することにより、波長識別のメカニズムに迫れると期待される。また、ゼブラフィッシュの松果体オプシンの代わりに、視覚オプシン(ゼブラフィッシュの視物質)が発現するゼブラフィッシュ変異体の作製に取り組み、松果体オプシンの特徴的な分子特性が、波長識別や機能にどの程度寄与しているのかも解析可能と期待される。上述のノックアウト個体やオプシンが置換された変異個体を用いて、副松果体における光受容細胞の役割の解析を試みる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 7件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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