研究課題
(1)骨格筋における胆汁酸受容体TGR5の機能解析ヒトTGR5を骨格筋に発現させたトランスジェニックマウスの筋量が有意に増えた知見に基づき、その分子機構を明らかにする培養細胞を用いた解析研究を進めた。TGR5を過剰発現させ培地に胆汁酸を添加すると、細胞内cAMPの上昇に呼応して複数の遺伝子発現が変動することが確認された。中でもSIK1遺伝子発現が上昇し、その下流遺伝子群が変動することによる筋分化促進作用が想定される結果を得た。さらに細胞の免疫染色により、TGR5と胆汁酸存在下で筋細胞の分化が亢進することを認めた。一方,TGR5ノックアウトマウスを入手し、その表現型の解析を進めている。各種骨格筋を採取し、種々の遺伝子発現を解析している。また、筋量の測定、筋力の定量を行っている。予備飼育をしたマウスにおいては、ノックアウトマウスにおいて筋量の減少が見られている。(2)NTCP輸送活性を抑制する食品成分の探索昨年度開発したヒトNTCP発現細胞株を用い、食品成分探索を行った結果、複数の候補食品化合物を見出した。しかし、その抑制効果は微弱なもので、候補食品成分の機能に関して信頼性は低いものであることが判明した。十分にヒトNTCPを発現した安定発現細胞株を樹立することが探索作業において必須であることから、その樹立を試みた。現在は安定発現株を複数獲得しつつある。発現株樹立の暁には、同様の評価系を繰り返すことから、短時間のうちに想定される結果を得ることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
2種類の遺伝子改変マウスを用いた筋量調節機構解析研究は良好に進展している。特に、作業仮設通りにTGR5を骨格筋に過剰発現させると筋量は上昇した。ノックアウトマウスにおいては、筋量が減少する傾向が予備飼育実験結果より得られている。これらの知見より、筋量維持において胆汁酸受容体TGR5が機能分子として働くことが、ほぼ確実視される現状となった。胆汁酸は摂食直後に小腸に分泌され、小腸下部でその大半が鳩首されたのちに肝臓へと戻る、いわゆる腸肝循環を繰り返す。さらに血中胆汁酸濃度も食後に上昇し、このことより我々は胆汁酸を摂食シグナルと想定している。血中胆汁酸濃度が骨格筋量を規定する因子として機能することは、摂食後に筋量を増加させる作用により、胆汁酸が摂食シグナルとして機能していることを意味している。このような作業仮設をほぼ立証しつつある点は順調に進展していることと評価している。一方、食品成分探索評価系において、良質な安定発現細胞株の樹立に失敗したことにより、同様の実験を繰り返すこととなった点は若干の遅れと判断できる。しかし、十分な発現量を見出せる安定発現株を樹立しつつあり、総合的にはおおむね順調に進展していると評価している。
(1)胆汁酸受容体TGR5の骨格筋機能維持作用 TGR5ノックアウトマウスの表現型の解析、種々の骨格筋における複数の遺伝子発現変動を追跡する。また、過剰発現させたトランスジェニックマウスとノックアウトマウスを長期飼育し、骨格筋量と筋力測定の相関を追跡観察する。筋量と筋力の相関を立証する。同時に、筋量の増減と持久力の相関についても、トレッドミルを用いた運動負荷試験により解析を試みる。(2)TGR5による筋量調節の分子機構解析 培養筋管細胞を用い、cAMP上昇の下流のシグナル伝達経路の活性化機構の解明を行う。同時に筋タンパク質合成の上昇について、サンセットアッセイ法により解析を進める。(3)血中胆汁酸濃度を上昇させる食品成分の機能解析 NTCP輸送活性を抑制する食品成分を見出し、この成分をマウスに投与した際に、血液中胆汁酸濃度が上昇するかについて解析を行う。胆汁酸濃度と骨格筋筋量増強の相関を解明する。(4)肝臓におけるTGR5発現制御機構の解析 既に絶食時に肝臓においてTGR5発現が上昇することを認めている。この分子機構を明らかにし、摂食‐絶食サイクルとTGR5発現制御について理解を深める。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Sci. Rep.
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http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/food-biochem/index.html