研究課題
生体内でコレステロールは燃焼することも分解することもできず、肝臓において胆汁酸へと異化し、これを糞中に排出する。これがコレステロール出納の経路であり、胆汁酸は排泄異化産物として注目を浴びることはなかった。21世紀に入り、核内受容体FXRのリガンドとしてFXRを活性化し、種々の遺伝子発現を調節し、代謝制御活性を持つことが明らかにされた。同時に、本研究で着目する胆汁酸受容体TGR5がユビキタスな発現により複数の組織で種々の機能を発揮することが明らかにされた。したがって、胆汁酸の機能解析の研究履歴は21世紀に入ってからの十数年に限られるとも言える。このような学術的背景の中、代表者らは胆汁酸のFXR活性化機構を介した代謝改善効果から始まり、本研究課題では摂食シグナルという新たな生理的役割を明らかにすべく研究を展開している。特に今回、2種類の遺伝子改変マウスを用いて骨格筋でのTGR5の機能を明らかにした成果は、先端研究として位置付けることができると考えている。2017年Nat Med誌に胆汁酸に応答して小腸から分泌されるFGF19が骨格筋に存在するFGF受容体に作用し、骨格筋量を増強させることが明らかにされた(Benoit B. et al. Nat. Med. 23, 990, 2017)。この報告は、作用点は異なるものの、我々と同じく「胆汁酸は骨格筋量を調節する生理活性因子である」という結論を提示している。胆汁酸の骨格筋への作用を明らかにし、新たな概念を提示することに成功したと言える。
1: 当初の計画以上に進展している
代表者らは小腸、肝臓、骨格筋における胆汁酸の生理作用を複数のモデュレーター分子の機能解析、それらの機能を修飾する食品成分の発見により、次第に明らかにしつつある。特にここ5年近く従事している骨格筋の胆汁酸受容体TGR5の機能解析研究において、骨格筋量増強に胆汁酸-TGR5が重要な働きをすることを明らかにできたことは特筆するに値する。胆汁酸が骨格筋機能維持に重要な働きをする生理活性因子であるという新たな概念は、2017年Nat Med誌に発表された論文でも作用機序は異なるものの全く同じ結論が提示されており、胆汁酸研究領域において広く認知されることになるものと予想される。このように複数の研究者により支持される概念となることは全く予想していなかったことであり、予定以上の学術的成果として挙げることができる。同時に、日本はまもなく超高齢社会を迎えることになり、健康寿命の延伸が望まれている。その中で身体機能を維持するために、高齢者は適切な骨格筋量を維持し、自立生活を継続することが必須となる。このような健康科学の側面からも、胆汁酸機能を活性化する方向で健康寿命の延伸を達成する試みは重要性を増してくることが予想される。胆汁酸輸送体、胆汁酸受容体の活性を抑制する、あるいはアゴニストとして機能する食品成分を見出すことに成功し、それらが実験動物において期待される代謝改善効果を発揮することを明らかにしている。これらの知見は、胆汁酸の生体内での代謝経路、代謝様式を変動させることにより、代謝改善効果をコントロールすることが可能であることを意味している。同時に、摂食シグナルである胆汁酸の機能を摂食する食品成分によって調節することができるという新たな可能性を示している。
*胆汁酸受容体TGR5の肝臓における機能解析と絶食応答の分子メカニズム解明胆汁酸は小腸から再吸収されたのちに肝臓へと輸送される。肝細胞表面に発現するTGR5は胆汁酸を結合し、細胞内へとシグナルを伝達をするが、その生理的役割について不明な点が多く残されている。また、TGR5遺伝子発現は絶食状況下で発現が上昇することを我々は認めており、この生理的意義とその分子メカニズムを明らかにする。このことにより、肝細胞におけるTGR5の生理的役割と胆汁酸自身の摂食シグナルとしての肝細胞における機能が明らかにされることが期待される。*胆汁酸分子種による機能性評価TGR5は胆汁酸をアゴニストとして活性化されるが、種々の胆汁酸分子種のうち二次胆汁酸のアゴニスト活性が高い傾向がある。肝臓で合成・分泌される一次胆汁酸は消化管内で腸内細菌により二次胆汁酸へと変換される。したがって、IBATもしくはNTCPの輸送活性を制御することにより、二次胆汁酸/一次胆汁酸比は変動することが予想され、それによる胆汁酸機能発現に変動の生じる可能性がある。血液中、肝臓中胆汁酸分子種を精度よく定量し(研究分担者との共同研究)、その変動による骨格筋量変動、脂質代謝改善変動を追跡する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo)
巻: 64 ページ: ,68-74.
10.3177/jnsv.64.68
PLoS ONE
巻: 12 ページ: e0179226
10.1371/journal.pone.0179226
J. Biol. Chem.
巻: 292 ページ: 3016-3028
10.1074/jbc.M116.767277
Nature Rev. Endocrinol
巻: 13 ページ: 710-730
巻: 292 ページ: 8223-8235
10.1074/jbc.M116.762609
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/food-biochem/