研究課題/領域番号 |
15H05781
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆一郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50187259)
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研究分担者 |
及川 彰 山形大学, 農学部, 准教授 (50442934)
柴田 貴広 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (80447838)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 胆汁酸 / 摂食シグナル / TGR5 |
研究実績の概要 |
コレステロールの異化産物である胆汁酸は、肝臓で生成され胆嚢に蓄えられる。摂食に伴い胃内に食事内容物が満たされると、これが刺激となり胆嚢が収縮し、胆汁(主成分は胆汁酸)が小腸上部へと分泌される。小腸管腔内で脂質成分の消化・吸収を助けたのちに胆汁酸の90%以上は小腸下部に取り込まれ、肝臓へと戻る、いわゆる腸肝循環をする。この過程で一部の胆汁酸は全身血流へと巡るため、摂食後に血中胆汁酸濃度は一過的に上昇する。この濃度上昇は摂食シグナルと考えられ、これを認識する標的分子が胆汁酸受容体TGR5である。代表者らは骨格筋でのTGR5の機能解析のために、ヒトTGR5を骨格筋に発現させたトランスジェニックマウスを樹立し、その解析を行ってきた。その結果、胆汁酸結合によりTGR5が活性化されると、骨格筋細胞のcAMPが上昇し、このシグナルが筋肥大効果をもたらすことを認めた。このマウスを高脂肪食投与により耐糖能異常状態にし、経口グルコース負荷試験を行った。その結果、血糖値の穏やかな上昇、その後の速やかな血糖低下が確認され、筋量増加が耐糖能異常改善に結び付くことを明らかにした。さらに、肝臓におけるTGR5の発現変動を追跡した結果、絶食時にTGR5 mRNAが上昇することを認めた。TGR5遺伝子のプロモーターの解析を行い、この発現制御機構は絶食応答により活性化する転写因子p53の作用によることを見出し、その制御機構の解析を進めた。摂食時に上昇する胆汁酸に呼応して肝臓TGR5の果たす生理的役割についてさらに解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
血中胆汁酸の機能は長い間、明らかにされる機会もないままに放置されていきた。代表者は摂食後に上昇することから摂食シグナルとして機能する仮説を打ち立て、その検証を進めてきた。骨格筋には複数のGタンパク質共役受容体が発現しており、TGR5もその一つてある。代表的なベーター2アドレナリン受容体は、合成リガンドで活性化すると筋量増強を導くことが動物実験、ヒト試験で認められている。TGR5も同じく細胞内cAMPをシグナルとして伝達することより、同様の効果を発揮するものと想定し、トランスジェニックマウスの開発を開始した。その結果、TGR5が摂食後の血中胆汁酸の上昇を感知し、これを骨格筋細胞へと伝達し、筋量増加を導くことを証明した。同時に、TGR5遺伝子発現は運動により上昇することを認め、運動により生じる小胞体ストレスが転写因子ATF6を活性化し、TGR5発現を上昇させる機構を明らかにした。すなわち、運動による筋量増加機構の一部はTGR5-胆汁酸作用であることを明らかにした。肝臓においては絶食時にTGR5遺伝子発現が上昇することを見出し、摂食シグナル胆汁酸を感知すべく肝臓が絶食時に準備を整えている機構を明らかにしつつある。これらの知見は、これまで提唱されたことのない新規な概念を支持するものであり、計画当初の予想を上回る進展と理解している。
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今後の研究の推進方策 |
*肝臓における胆汁酸受容体TGR5の発現制御機構解明 代表者は絶食時に肝臓でのTGR5遺伝子発現上昇をすでに認めており、プロモーター解析の結果、転写因子p53、が深く関与する事実を認めている。こうして絶食時に発現誘導を受けたTGR5は、摂食後に濃度上昇した胆汁酸により活性化される。しかしその下流にあるcAMPは摂食時には低下することが知られており、TGR5の肝臓における機能はそれに逆行するものであり、その生理的意義についての解析を進める。 *血中胆汁酸濃度を上昇させる食品成分の探索 代表者らの知見、および複数の論文報告によると、血液中の胆汁酸濃度上昇は代謝改善効果、筋量増加をもたらすことが明らかになっている。血液中の胆汁酸濃度を上昇させ、骨格筋、脂肪組織におけるTGR5を活性化することは代謝改善につながることが予想される。そこで肝臓への胆汁酸輸送体NTCPの輸送活性を抑制し、血中胆汁酸濃度を上昇させる食品成分の探索を開始している。食品成分によりNTCP輸送活性を低下させ、全身血流への胆汁酸流入を増価させることにより、予想される生理応答が起こるかについて解析を行う。
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