研究課題/領域番号 |
15H05785
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長田 重一 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 寄附研究部門教授 (70114428)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | アポトーシス / 自然免疫 / リン脂質 / マクロファージ / 貪食 |
研究実績の概要 |
アポトーシスを起こした細胞はフォスファチジルセリン(PtdSer) を “eat me” シグナルとして提示し、マクロファージによって貪食される。私達は、死細胞の貪食に関与する分子(Tim4, MER, MFG-E8)を同定するとともに、PtdSerを細胞膜の内膜と外膜の間でスクランブルさせるスクランブラーゼ (Xkr8およびTMEM16F)、外膜から内膜へ移動させるフリッパーゼ (ATP11Aや11C)を同定した。本研究はこれら分子の作用機序、生理作用を明らかにすることを目的としている。 本年度は、アポトーシス時にカスパーゼによって活性化されるXKR8がリン酸化によっても活性化されることを見いだし、分子のC-末端に存在するリン酸化残基を同定した。PtdSerの暴露はアポトーシス時ばかりでなく、活性化したリンパ球や癌細胞でも認められることから、この結果はXKR8によるリン脂質のスクランブリングがアポトーシス以外にも関与している可能性を示唆している。ところで、ATP11Aと11Cはフリッパーゼとして同様の機能を持つにもかかわらず、ATP11C遺伝子を欠損したマウスではBリンパ球が顕著に減少している。本年度この原因がBリンパ球はATP11Cのみ発現しているため、ATP11Cのノックアウトではフリッパーゼ活性が喪失、これによってBリンパ球はPtdSerを暴露、マクロファージによって生きながら貪食されることを見いだした。この結果はフリッパーゼによるPtdSerの細胞内への移送は細胞がマクロファージなどによる貪食を免れるために必須のシステムであることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞膜の非対称性が崩壊し、PtdSerがその表面に暴露される現象はアポトーシス細胞ばかりでなく、活性化された血小板、癌細胞、活性化されたリンパ球、老化した赤血球、受精精子など様々な生物過程で観察される。私たちはこれまでにTMEM16FをCa2+によって活性化された血小板などでPtdSerを暴露させるスクランブラーゼ、XKR8をアポトーシス時にカスパーゼによって活性化されるスクランブラーゼとして同定したが、今回、Xkr8はリン酸化によっても活性化されるとの全く予想外の発見をした。一方、生きた細胞は通常、マクロファージによって貪食されることはなく、欧米のグループは生きた細胞は"Don't eat me" シグナルを細胞表面に持つと仮定している。今回の我々の結果はフリッパーゼの欠損によってPtdSerを暴露した細胞はin vitro, in vivoでマクロファージによって貪食、分解されること、PtdSerが暴露さえすればこれがeat me シグナルとして"Don't eat me" に打ち勝つことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
XKR8が属するヒトXKR familyには9個のメンバーが存在している。これまでに3個のメンバーがカスパーゼで切断されリン脂質スクランブラーゼを持つことを見いだしているが、XKR8以外にリン酸化によってスクランブラーゼ活性を持つメンバーが存在するであろうか。 それぞれのメンバーをXkr8欠損細胞に発現、その細胞をCalyculin やPervanadate などのPhosphatase inhibitor で処理することにより、スクランブラーゼ活性が増大するかどうか検討する。ところで、アポトーシス時のPtdSerの暴露はカスパーゼによるスクランブラーゼの活性化と共にフリッパーゼ活性の抑制も伴っている。それではATP11Aや11C フリッパーゼ活性はリン酸化によって制御されるであろうか。ATP11Aや11C発現細胞をkinase やphosphatase のinhibitorで処理、これら分子のフリッパーゼ活性が変動するかどうか検討する。変動するようであれば、これら分子のリン酸化部位を決定する。ATP11C遺伝子欠損マウスはB-リンパ球減少症を示すのに対し、ATP11A遺伝子欠損マウスは胎生致死である。この原因を明らかにするためマウス胚発生段階でのATP11A、11C発現細胞を同定、その細胞でのフリッパーゼ活性を測定するとともに、PtdSerを暴露している可能性、マクロファージによって生きながら貪食されている可能性などを検討する。
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