研究課題
近年申請者は、外的侵襲に対して、皮膚内にリンパ様組織構築(Skin-Associated Lymphoid Tissue; SALT)が誘導される事を世界で初めて見出し、本構築をinducible SALT: iSALTと命名した。そこで、外的侵襲に対する皮膚応答機構を理解し、各種皮膚疾患の発症機序を解明する事が本研究課題の目的である。本年度は、生理的条件下での誘導型SALTを初めとする皮膚の生体応答反応を解析するために、皮膚の構成細胞・構造物・細胞機能を包括的に可視化するシステムを新たに確立し、そして外的侵襲に対するSALTを軸とした皮膚の生体応答機序の解明を目指した。当初の目的であったマウス皮膚の可視化に関しては、皮膚の構造物、各種皮膚構成細胞と細胞機能の可視化に成功した。また、外的侵襲に対するマウス皮膚の生体応答の解明を目指し、iSALT形成における上皮・免疫・間質細胞の役割を解明した。また、ハプテンのみならずタンパク抗原や自然免疫系シグナルなどの外的刺激に対するiSALTの生理・病態的役割の解明も明らかにしつつある。
2: おおむね順調に進展している
外的侵襲の一次標的は、皮膚の上皮細胞である表皮角化細胞であり、ATPをはじめとするdamage-associated molecular pattern molecules (DAMPs)やサイトカインの発現、pH変化、Ca2+上昇などの多彩な一次応答を引き起こす。そこで、ATPプローブなどのサイトカインレポーターマウス、pHプローブ、Fura2などを用いたCa2+センサー、シグナル伝達関連のFRETマウス、細胞構造標識・細胞機能標識の人工蛍光プローブ分子を用いて、上皮の生理的な生体応答を生理的条件下にて検証するためのin vivoモニタリングシステムを確立した。次に、外的侵襲におけるiSALTの生理・病態的役割を検討した。マウス皮膚疾患モデルとして、申請者の所属する研究室で確立しているマウス一次刺激性皮膚炎、ハプテンによる接触皮膚炎、タンパク抗原によるアトピー性皮膚炎、TLR刺激による尋常性乾癬モデルを用いた。申請者は既に、接触皮膚炎モデルではメモリーT細胞と樹状細胞、アトピー性皮膚炎モデルでは、さらにナイーブT細胞やB細胞がiSALTヘ集積することを確認した。また、その際に樹状細胞が産生するリンホトキシンが、血管内皮細胞に作用してPNAd陽性の高内皮静脈を誘導していることも見出した。以上より、iSALTの形成が、接触皮膚炎のみならず、獲得免疫系が関与する多くの免疫反応において誘導されること、そして、その形成が免疫応答の調整に何らかの役割を果たしている事を示唆する所見を得た。したがって、初年度に達成するべき研究成果は十分得られており、概ね順調に進呈していると考える。
1.iSALT形成における上皮・免疫・間質細胞の役割の解明各種外的侵襲に対する一次応答と、それに引き続くiSALT形成とその特徴を解析し、iSALT形成に関与するDAMPsやサイトカインなどの上皮由来の因子を同定する。次に、iSALT誘導に関与する因子が免疫細胞・間質細胞に及ぼす影響を解析する。まず、各種因子が血管内皮細胞と血管周囲マクロファージに及ぼすケモカイン発現や接着因子などの変化を培養細胞によりin vitroで検証する。第二に、上記で得られた結果をもとに、遺伝子改変マウスや阻害薬・抗体を用いることにより、各種接着因子やケモカインがiSALTの形成やiSALT構成細胞に及ぼす影響をin vivoで検証する。以上より、上皮・免疫・間質細胞の3つの観点から、各種外的侵襲によるiSALTの形成とその構成細胞への寄与を検証する。2.外的侵襲に対するiSALTの生理・病態的役割の解明フローサイトメトリーと生体イメージング法を用いて、各疾患モデルにおける皮膚への各浸潤細胞の同定と局在をiSALTの観点から解析する。IL-1aやCXCL2などの阻害によりiSALTの形成が阻害できることを申請者は確認してため、これらの手技を各疾患モデルに用いて、外的侵襲に対するiSALTの生理・病態的役割を解析する。この際に、長年未解決の問題であった「皮膚という末梢臓器におけるナイーブT細胞への抗原提示」や、「細胞のIgEなどへのクラススイッチの可能性」に対する解答をiSALTの観点から解き明かす。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
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