カントが政治的体制とパトリオティズムに関する考察を展開した論考『理論と実践』を掲載した『ベルリン月報』の寄稿者、および同時代のその他の論者たちの議論を取り上げ、18世紀後半のドイツ語圏における政治的イデオロギーの観点から、以下のようなパトリオティズムの諸類型を析出した。 (1)神聖ローマ帝国と結びついたパトリオティズム類型:郷土への忠誠よりも神聖ローマ帝国への愛着を優先するべきことを説いたF・C・フォン・モーザーのテクストや、身分制的な国家論を展開したJ・メーザーの『郷土愛の夢』から、「祖国」理解の一類型を引き出した。 (2)君主政と結びついたパトリオティズム類型:「祖国」概念を明示的に共和政ではなく君主政と結びつけてパトリオティズム論を展開したT・アプトのテクストをもとに、共和主義と結びついていたパトリオティズム理解の転換を確認した。 (3)啓蒙主義的パトリオティズム類型:フランス革命勃発後の時期に『ベルリン月報』に掲載されたW・A・テラーやE・F・クラインの論考を分析し、そこから啓蒙絶対主義を前提として官房学的、功利主義的観点から発展段階的に論じられる祖国愛や、自由で高貴な「思考様式」を促進する政府への愛を、パトリオティズムの一類型として把握した。 これらの類型と比較することによって、カントの「思考様式」を軸にしたパトリオティズムが共和制概念と結びつき、専制的(家父長的)統治を批判する論理を構成するものであること、さらに、そのような「思考様式」が、フランス革命の考察において、人間学のテクストで強調される真の意味での熱狂をもたらすものであること、が確認された。
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