最終年度では,コーパスの作成を続行し,主要な国定化前国語読本(『読書入門』・『尋常小学読本』文部省,明治19~20;『帝国読本』小林八郎,明治25)の主要な巻における翻字と文字画像の切り出しを終えることができた。コーパス化の主要な焦点は,変体仮名の使用実態の検討にあるが,その導入は1年生後期から2年生にかけて集中しており,これらの巻の処理が重要である。本年度は,コーパスシステムへの組み込みまでにはいたらなかったが,切り出された画像をもとに試行的に字体の分析を行い,今後の読本における字体研究の指標とすべき結果を得たので,論文として公開をすべく準備している。このほか,国語読本における変体仮名表について,国立教育政策研究所・東書文庫で調査を行った。これらは,本文とは独立して変体仮名の教授に用いられたものであり,コーパス化した本文との対比のために予備的に分析したものである。 『和翰名苑』字体データベースについては,その後開発を進め,日本語学会2016年度春季大会で発表したほか,人文情報学に関する国際学会であるJADH2016においてもそのシステムについて発表した。『和翰名苑』は,江戸期の仮名字書であって,通俗的な字体は形状の類似したものをまとめて掲出し,身近でない字体は字母ごとに掲出するという,類書にない構造を取っている。これは,江戸期における平仮名の様相に関してこれまでにない知見を与えるものであり,2016年度日本語学会春季大会発表賞を受賞した。日本語学会における発表に関しては,論文を投稿してその公開を待っている段階である。
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