研究課題/領域番号 |
15H05985
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
竹谷 隆司 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 学術研究員 (00756322)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 神経生理学 / 電気生理学 / 選択的注意 / 認知心理学 |
研究実績の概要 |
空間的注意に関する研究は数多く行われてきたが、情報が入力される時間が既知の場合は注意選択を特定の時間に効率よく行うことが重要となる。本研究の目的は時間予測時の注意選択メカニズムを明らかにすることであった。 1つ目の研究はサルを用いた神経生理学的検討であった。受容野内に提示される刺激への時間予測・空間的注意の有無を直交操作し,時間予測と空間選択の統合過程を調べるために,ニホンザルを訓練した。現在,1頭のサルの訓練が順調に進み,課題を習得しつつある。また2頭目のサルを訓練中である。 2つ目は自動的な時間処理である。サルを用いた時空間的注意を調べるにあたり,サルとヒトの時間情報処理の違いは研究の発展性において重要である。指標として,ミスマッチ関連陰性電位(Mismatch Negativity, MMN)を用いた。MMNは特定の刺激の特徴に対する自動的な処理を反映する一過性の脳波成分である。本研究はヒトで示されている刺激の持続時間処理に関するMMNがサルでも生じるかどうかを検討した。結果としてサルでは持続時間MMNが生じず,自動的な短い時間の処理はサルとヒトで異なることが示唆される。この研究成果は,チンパンジーからMMNを測定している学外の研究者と共著の論文を執筆する前提で議論され,現在,よりノイズの少ない脳波測定のための準備を行っている。 3つ目の研究では能動的な時間処理に焦点を当てた。これまで,特定のリズムを持った刺激に対する同期運動(いわゆる「のる」運動)はサルには備わっていないと考えられてきた。本研究は左右に一定間隔で交互に現れる視覚刺激への同期的眼球運動をトレーニングした。結果としてサルにも同期運動の能力があることがわかり,能動的な時間予測に基づく運動能力はヒトと類似することがわかった。この成果は国内の研究会・学会で発表し、国外の研究者と共著の論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サルを用いた時間予測・空間的注意の研究では,視覚刺激に対する感覚処理を検討するために,あえて眼球運動を伴わない手がかり刺激に対する注意の影響を検討するパラダイムを用いている。そのためサルにトレーニングする課題がやや難しく,計画よりも時間がかかっている。しかし,現在1頭のサルは同課題をほぼ習得しており,細かい実験パラダイムを設定し次第,単一細胞記録を開始する。またサルの課題を策定中のため,直接比較するためのヒト脳波実験を停止中であるが、サルのトレーニングが済み次第速やかに実験を開始する。脳波計の使用や分析については予備的なデータの取得ができるまでに準備が進んでいる。 そのような状況において,同時並行して特別な訓練を要しないMMNの測定をサル・ヒト双方で行った。これまでヒトMMNは安定的に記録されている。一方でサルの脳波は,固視点を見つづける課題を設定したことで眼球運動によるアーチファクトの混入は抑えられ,十分な加算回数があるために比較的安定した信号が得られている。しかし,サルが吸い口からジュースを飲む際などには大きなノイズが混入する。現在,サル硬膜上に電極を常置する手術を準備している。電極の作成やサルMRI画像からの電極位置の策定などは完了している。また脳波解析用のプログラムは頭皮上より脳波記録時に作成済みのものを用いるため、測定が可能になれば速やかに分析できる準備が整っている。 サルのリズム刺激に対する同期運動の研究においては,サルを用いた実験は既に終了しており,論文化の準備を進めている。同課題におけるサルとヒトの違いを直接的に比較するために,ほぼ同じ手続きでヒトを対象とした実験も行っている。これらはサル神経生理実験のためのサル訓練等の準備の合間に行われた。
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今後の研究の推進方策 |
サルの選択的注意機能に関する神経生理実験は,継続してサルの訓練を行う。現在課題を習得済みのサル1頭は,課題のパラメータを決定し次第,速やかに神経生理実験を行う。LIP野から単一ニューロン活動を記録し、受容野内に提示された刺激に対する反応を分析する。ただし、注意による効果が刺激提示前の自発活動の変化として観察される可能性や、その時間経過が注意により異なる可能性があるため、刺激提示前後の広い時間帯の神経活動を分析する。時間予測と空間的注意が統合される脳部位が同定され次第、多点電極記録・多層解析を行い、細胞における統合過程を明らかにする。さらにヒト脳波実験においては、注意を向けるための手がかりとなる刺激に対して出現するであろう前頭部のγ波、刺激出現の直前に注意側の対側半球で減衰する後頭α波、および注意によって変動する視覚誘発成分・高周波律動の3つを主に分析する。この研究により予測された特定の時間における空間的注意選択の制御過程を明らかにする。 サルおよびヒトのMMNの研究は、準備中の硬膜上電極布置手術を行い、安定した脳波計測を行う。MMNは視覚・聴覚それぞれの感覚モダリティで実験を行う。また持続時間だけでなく、音の高さや視覚刺激の色など、さまざまな条件でMMNを計測し、ヒトと比較する。この研究によりヒトとサルの自動的な時間処理の差異を検討する。刺激に対する同期運動の研究では,速やかにヒトの追加実験を行い,執筆中の論文を投稿する。持続時間MMNと同期運動には小脳の関与が指摘されている。昨年度より申請者が所属の研究室ではウイルスベクターを用いた研究が開始しており,これを利用した実験も視野にいれ研究を継続する。
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