恐怖は生物が環境に適応して生存するために重要である。一方で過剰な恐怖は不安障害などの精神疾患の原因となる。不安障害治療には抗うつ薬や抗不安薬が用いられるが、症状が寛解した患者のうち約 40 % において症状が再発するという問題点がある。近年、不安障害に対する新たな治療法として、認知行動療法の一つである曝露療法が注目されている。曝露療法では、患者を恐怖の対象に徐々にさらしていくことにより現在の環境がもう危険ではないことを学習させて恐怖を克服させる。動物モデル(恐怖条件づけと消去学習)を用いた基礎研究が国内外で盛んに行われており、その神経回路メカニズムが解明されてきている。一方、再発に関する研究は非常に少なくメカニズムはほとんど解明されていない。 本研究では、恐怖復元を不安障害の再発モデルとして用いて神経基盤解明を目指した。以前の研究から前頭前皮質のドパミン D1 受容体が必要であることを明らかにしていたが、本研究により D2 受容体は必須ではないことを明らかにした。また、前頭前皮質がどのような下流の脳領域に信号を送り行動を制御するのかを調べるため、まず、前頭前皮質が形成する神経回路を解剖学的に検討し、水道周囲灰白質に対する密な投射を見出した。次に、前頭前皮質-水道周囲灰白質経路を人工的に活性化することにより、マウスの行動にどのような変化が現れるかを検討した。その結果、同神経回路の活性化により自発運動量が増大する傾向が認められた。本成果は、生物が環境に応じて行動を柔軟に調節するメカニズムの解明に貢献すると考えられる。
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