研究課題/領域番号 |
15H06013
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寅屋敷 哲也 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (50758125)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 災害リスク評価 / 地震災害 / 火山災害 / ライフライン防災 / 自然災害予測・分析・対策 |
研究実績の概要 |
本研究は、宮城県で将来発生が懸念される蔵王山火山噴火と宮城県沖地震という産業への影響が異なる2種類のハザードを対象に、これら災害によるインフラ機能支障(電力、鉄道、航空)の機能停止に伴う地域経済への影響について、東北地方をモデルとした産業連関分析を用いて評価する。本研究では、産業連関分析に用いるための産業ごとの被害率(取引額の低下率)については、災害による被害と復旧期間の関係から設定する。2015年度の研究実績は以下の通りである。 1.対象とするハザードにおけるインフラ被害に関する情報の収集・整理 地震と火山による電力と交通インフラ機能停止期間やそれによる企業活動への影響について、既存文献の収集やヒアリング調査等から得ることができた。地震については、分析の対象が宮城県沖地震であることから、地域が重なる2011年の東日本大震災を主な対象として調査を実施した。火山については、2011年の新燃岳噴火や、2000年の有珠山の噴火、1991年の雲仙普賢岳の噴火などを主な対象とし、九州地方で特に火山噴火による影響が大きかった交通インフラの影響についてヒアリング調査を実施した。ここで、現場の情報として、火山灰がどの程度積もると空港や鉄道の機能停止がどの程度継続するかという指標の基礎情報を得ることができた。 2.被害レベル別のインフラの機能停止期間の設定 次に、産業連関分析に用いる設定条件として、被害レベルをインフラの機能支障が軽微・甚大・壊滅の3段階程度を設定し、その違いによる経済影響の差を分析する方針を定めた。そのため、蔵王山火山噴火は宮城県沖地震で想定されるそれぞれの被害レベルのインフラ機能停止期間を設定する研究作業を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は、産業連関分析の前提条件を設定するための情報収集とインフラの機能停止期間の設定を目的としていた。 地震災害による各インフラ被害の想定手法については、既存文献や報告書等を基に被害レベルに応じた期間設定を行った。また、インフラ以外の産業の被害率についても一定程度設定する必要があるため、研究対象とする宮城県沖地震については、地震被害と津波被害に分けて、産業としては製造業と非製造業に分けて被害率を設定する方針を定めた。そのうえで、東日本大震災による被災企業(製造業・非製造業含む)へのヒアリング調査を実施し、どの程度の被害でどの程度の復旧期間を要したか、また、電力や交通インフラの支障による事業継続への影響などについて把握した。 火山災害については、火山噴火に伴う降灰による各インフラへの影響に関する国内外の文献を収集したが、どの程度の復旧期間を要するかについての情報が限られていた。そのため、2011年に発生した新燃岳噴火による空港と鉄道への影響についてのヒアリング調査から、被害に対する復旧期間を評価する指標の基礎情報を得ることができた。インフラ以外の産業については、火山では広範囲に広がる降灰の影響が特に影響が大きい産業である観光産業と農業について別途被害率を設定する方針とした。このため、桜島や阿蘇山周辺の観光事業者へのヒアリング調査などから、噴火による観光客の減少程度について情報を収集した。 以上の情報を基にして、地震と火山それぞれに対し、各インフラの被害レベルを3パターン程度設定し、さらにインフラ以外の産業の被害率を設定するための情報も得られ、産業連関分析に応用する準備がある程度進んだ。そこで2015年度に実施する予定であった前提条件を設定するための情報収集は、おおむね順調に進んだといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、産業連関分析を行うために、地震・火山の両ハザードごとに、被害に応じた産業ごとの被害率の算定と産業連関表の作成を行い、経済影響の分析・評価を実施する。 分析に当たって、産業の連関として被害の影響がダイレクトに波及する場合と代替手段を講じて影響が抑えられる場合があるため、その点を考慮して分析方法を工夫していく。また、災害によるインフラの機能停止による影響を受ける範囲と産業連関表の地域区分(都道府県)ではそのスケールが異なるため、被害による産業への影響を適用する区分は市区町村単位で行い、その影響から生じる取引額の低下を都道府県単位に換算するという方法で行う。分析に用いる産業連関表については、宮城県内への影響と県外への影響という2種類で評価するため、これら2地域の産業連関表を作成する。以上を踏まえて、一度分析評価を行ってから、特に波及影響が大きい産業が見つかった場合には、さらに影響を精査するためにインフラ以外の産業の被害率の設定方法の見直していき、分析を深めていくこととする。 ある程度成果がまとまった段階で、学会発表を行い、学識経験者等と分析方法などについて意見交換を行う予定である。また、研究代表者が所属する研究室で主催している仙台での勉強会には行政や民間企業等の方が50名程度参加しており、そこで地域の経済被害評価手法として地域の減災政策立案に有用となりそうかについて意見を聞き、最終的に政策提言を踏まえた論文としてまとめる予定である。
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