研究課題/領域番号 |
15H06015
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
KLAUTAU Orion 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (10634967)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 思想史 / 日本仏教 / 近世仏教 / 近代仏教 / 幕末維新期 / 護法論 / 排仏論 / Modern Buddhism |
研究実績の概要 |
本年度は、研究代表者が当初の研究実施計画に沿って、近世後期における仏教思想の歴史的展開について検討した。18世紀以降に成立する新たな歴史意識の枠組で、日本列島における仏教者の自他認識がいかに展開するのかなどについて考察し、より具体的には幕末期を代表する「勤王僧」の月性(1817-1858)の営為や、幕末期において大活躍した学僧・(樋口)龍温(1800-1885)の思想的活動といった課題に取り組んだ。その成果として、月性が執筆したテキストである『護法意見封事』を下に作成された『仏法護国論』の英訳も完成し、それが2017年に北米の大学出版会から刊行される近代仏教史料集に所収される予定である。他方の龍温について、大谷大学図書館の円光寺文庫に、研究上、これまで着目されたことがない新史料を発見し、龍温の護法活動を通して幕末期の仏教思想への地平を拓ける段階に至りつつある。その成果の一部は、国内の学術団体である「日本宗教学会」の学術大会で発表し、そして申請書どおり、米国のシアトル市で開かれたAssociation for Asian Studies(AAS)の学術大会でも報告し、近世・近代の日本研究者から評価を得た。さらに、江戸後期の新たな自他観を踏まえて「仏法」を語りなおした月性や龍温の思想的営為は、明治期の仏教論といかに連絡していくかについても考察し、一年目は主に村上専精(1851-1929)を検討した。1890年代の東京大学で仏教の講義を担当した初期の教員である村上は、世紀転換期において「大乗非仏説」を唱えたことで着目されることが多いものの、代表者は1880年代における彼の道徳論と、当時に展開されつつあった仏教概念の再構築との関係において検討し、その成果の一部にまつわる公開講演を行った上で、現在、学術論考も用意している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の主要目的であった江戸後期における仏教者の思想的展開の新たな描写につながる史料蒐集やその考察もある程度まで達成でき、本研究は「おおむね順調に進展している」といってよい。今までの成果について、幕末思想史の専門家である岩田真美氏(龍谷大学講師)、桐原健真氏(金城学院大学准教授)、ジョン・ブリーン氏(国際日本文化研究センター教授)と議論し、幕末期における仏教者の自他認識の転回と、後の「ネイション」の問題との関係において連続と断絶の両側面を考察できた。その成果が「日本仏教」にまつわるもうひとつの「近代化物語」へとつながるように努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、これまでの成果を踏まえつつ、明治・大正期の「日本仏教」という観念の成立についてさらに検討する予定である。ことに大東亜共栄圏の時代における仏教(史)のイデオロギー的役割をめぐって、大陸仏教の問題との関係において考察したい。その成果は、国内のワークショップやパネルセッションを始めとして、国外の研究集会でも報告する予定である(現在、11月に米国のサンアントニオ市にて開かれるAmerican Academy of Religionの学術大会でプロポーザルが採択され、発表する予定)。
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