研究課題/領域番号 |
15H06016
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野内 清香 東北大学, 文学研究科, 助教 (70757913)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | ニーベルンゲンの歌 / ニーベルンゲン伝承 / ニーベルンゲンの指環 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究実績としては、2015年10月13日に日本独文学会秋季研究発表会において「「二重の代理人」フォルケール―『ニーベルンゲンの歌』の詩人が楽人に仮託した役割」と題して口頭発表を行った。この発表は、博士論文で論じた『ニーベルンゲンの歌』の後編におけるブルゴント王家(グンテル、ゲールノート、ギーゼルヘル)とトロネゲ軍(ハゲネ、フォルケール、ギーゼルヘル)の三対三の構造を踏まえ、その構成員である楽人フォルケールに焦点を当てて、その造形の特徴や役割を分析し、ニーベルンゲン詩人の創作意図の考察をより深めたものである。フォルケールは作中において、作者の代弁者であると同時に、トロネゲのハゲネの代理人であるという意味で「二重の代理人」である。ニーベルンゲン詩人は、フォルケールの言動を通じてハゲネをこの叙事詩の中で英雄として歌い上げようという自らの意志を表し、また叙事詩前半の「獰猛なハゲネ」の像をフォルケールに引き取らせることで、後半の悲劇的展開の中でハゲネを異教的英雄として純化しようとしているということを論じた。 こうしてニーベルンゲン詩人によって形成された、ジーフリト殺害者にして英雄でもあるハゲネは、後のニーベルンゲン伝承の受容におけるハーゲン像に決定的な影響を与えたと考えられる。この研究はヴァーグナーの『ニーベルングの指環』以後のハーゲン像の変遷を扱うものだが、この口頭発表ではその前段階の『歌』の英雄としてのハゲネ像を再確認したことになる。『指環』が『歌』からの直接の翻案ではなく、より古い北欧の伝承(ハーゲンが殺害者ではない)から多くの要素を取り入れながら、なおもハーゲンをジークフリート殺害者でかつニーベルング族の末裔としたのは、『歌』のハゲネ像によるところが大きいことを再認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度はヴァーグナーの『ニーベルングの指環』4部作の研究を行う計画であった。ヴァーグナーが楽劇の素材とした古い北欧の伝承に関しては、既に『エッダ』、『ヴォルスンガサガ』『シズレクスサガ』等の古アイスランド語の文献にあたっており、それらを用いてヴァーグナーがどのような作品世界を構成し、ハーゲンにどのような設定と役割を与えたのかについての、『指環』テキストの読解はおおむね順調に進んでいる。しかし、ヴァーグナーに関する研究書を収集し、ヴァーグナーが楽劇を制作した時代の背景などについて調査する中で、ヴァーグナー自身はどのような意図でハーゲンをこのような特殊なキャラクターとして設定したのかということが、新たな疑問として浮かび上がってきた。その点については今後さらに、『楽劇』のテキスト以外のヴァーグナーの著作や二次文献にあたり検討する必要があると考えている。 ヴァーグナー研究と平行して行ってきた、『指環』以後の新しいニーベルンゲン伝承を扱った作品の収集は、おおむね順調である。日本国内で入手できるもののほか、2016年3月にドイツで行った調査では、バイロイトのヴァーグナー博物館やヴォルムスのニーベルンゲン博物館ほか、各地の博物館や書店で、様々なニーベルンゲン伝承関連の書籍、DVD、CDなどを収集することができた。 また、このドイツでの調査においては、平成28年度の計画として予定していた現代のニーベルンゲン受容の4分類のうち、「観光資源や展示物」についての取材を先行して行った。『ニーベルンゲンの歌』の舞台のヴォルムス、ジークフリートが竜を殺したと伝えられるケーニヒスヴィンターのドラッヘンフェルス山、ジークフリートの殺害現場とされるグラーゼレンバッハのジークフリートの泉などでは、非常に興味深い結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、ヴァーグナーがいかなる意図のもとに、『ニーベルングの指環』のハーゲンを造形したのかを探るため、ヴァーグナーの『指環』以外のテキストや二次文献についての調査をさらに続ける予定である。 平行して進めている現代のニーベルンゲン受容については、これまでに入手した資料の整理、分類を行う予定である。
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