研究課題/領域番号 |
15H06018
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
温 笑トウ 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (80754548)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 行為規制 / 支配株主 / 不公正発行 / 不公正ファイナンス |
研究実績の概要 |
本年度は、平成26年改正後の会社法において、支配株主の行為規制を導入しなかったことの理論面でのサーベイを行い、近時の代表的な文献や、かつての文献を幅広く渉猟した。 かつての文献が、子会社少数株主保護に重点があったのに対し、近時の文献が、主に親会社の株主保護の観点を重視している点を発見し、従前の議論の蓄積のある結合企業法制の一部は、必ずしも近時の問題の解決にはつながらないことを発見した。また、私法学会に参加し、多重代表訴訟制度についての報告に接し、親会社株主保護のエンフォースメントについて知見を深めた。 この検討の結果、近時、日本で発生している問題として、支配株主の保有する資産を高値で取得することで、会社が新株発行等を通じて調達した資金を支配株主還流させるいわゆる「不公正ファイナンス」について、抑止の方法が十分なのかという点に着目した。この問題について、本研究の特色であるソフトローの活用の観点から、証券取引所の「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」を分析し、担当者に電話でのインタビューを実施し、その成果を東北大学商法研究会で報告した。この研究会でのフィードバックから、証券取引所のソフトローは上場を維持している会社にとっては有意義ではあるものの、危機時期の「不公正ファイナンス」の事案においてはサンクションが不十分であり、抑止として不十分な点があるという知見に達した。そして、ハードローによる救済手段の必要性を導いた。 その後、アメリカ判例法も渉猟した結果、不公正ファイナンスと呼ばれる事案について幅広く新株発行差止の可能性があるという示唆を得た。これを日本法の不公正発行差止(会社法210条2号)の枠組みでとらえることができるのではないかとの結論に達し論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画によれば、本年度の研究は、1.支配株主行為規制のない日本法の分析、2.支配株主規制の存在する中国法の分析、そして、3.比較法分析である。 まず、第一点目の日本法分析では、研究実績の概要で説明した通り、近時、日本で問題となっている支配株主の濫用行為は、いわゆる「不公正ファイナンス」の中で位置付けられることを発見し、その対処として現在なされているソフトロー(取引所の自主規制)の不十分な点を補うべく、ハードローとして不公正発行差止制度による対応を提唱した。他方、日本の下級審裁判例の分析について、研究自体は進行しており、東京大学商法研究会での報告を28年度5月9日に実施することとなった。 第二点目の中国法分析では、本年度、数度にわたり中国に滞在し、南開大学での調査や各学会に参加することで知見を深め、研究を進行している。公表成果はないものの、上場会社の新株発行に、調達資金の使途等について行政機関による審査義務を課しており、一部の株主の利益を図る新株発行に対する規制として機能しているという点を、本研究の着目する不公正ファイナンス局面の日本法との相違として発見し、今後の分析対象を特定した。 第三点目の、比較法分析については、中国法において、近時、新株発行を審査制から登記制に変更する動きがあり、従前の支配株主の濫用行為への規制が弱まる可能性があることから、日本における会社法、取引所規則等による対応を導入する余地がありうるという日本法から中国法への示唆を獲得している。他方で、アメリカ法の分析から、不公正発行の差止について、従前の主要目的ルールが適用されてきたような支配権移転が問題となる場面を超えて、より幅広く活用する可能性があるのではないかという示唆を獲得し、本研究が抽出した不公正ファイナンス事案に活用することで、平時の支配株主行為規制として機能することを導いた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は計画最終年度であり、以下の2点を目標とする。1.日本法についてソフトローによる規制で十分といえる場合、および規制がそもそも不要となる場合はいかなる場合なのかの分析、2.中国法として、支配株主規制が必要となる条件と代替規制の提案を行い、これらの研究結果を踏まえて3.支配株主規制がいかなる場合に必要となるかを導く。 まず、一点目の日本法については、具体的には、前年の成果である不公正発行差止活用論で支配株主の濫用行為のうちどの範囲を抑止できるのか、どの範囲について抑止が不十分でなっているのかの分析を行う。そのために、日本私法学会、信託法学会、法と経済学会等に参加し、同分野研究者との意見交換を継続して行い、親子会社規制の最先端の知見を獲得する。さらに、取引所規則、コーポレートガバナンス・コード等を手段とする規制の可能性も検討する。再検討の結果、コンツェルン法型ないし中国法型の一般的な支配株主の行為規制が不要であるとなれば、その帰結はどのような制度・社会的諸条件に依存しているのかという点について分析を行う。 第二点目の中国法分析においては、中国の特殊な国有株および株式所有構造が会社法・証券取引所規則によるルールにどのような影響を与えるのかを分析することで、規制導入の社会的諸条件を特定する。また、並行して、現行の自主規制が、財産の無償処分や担保の無償提供といった典型的な支配株主の濫用事例以外にも広く及ぶことから、日本法が重視した親子会社間のシナジーのある取引が抑止されているという問題を指摘する。そして、規制範囲を限定し、無償取引とシナジー発生の可能性がある有償契約とを区別する等の、より合理化した規制の代替案を提示する。 上記、2点を踏まえて、支配株主規制が必要・不要となる社会的諸条件を抽出するのが第三点目である。
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