本研究では,非定常運動を伴う赤血球膜の変形挙動が膜による物質輸送に与える影響の解明を目的としている.本年度は数値積分におけるサブエレメントへの分割を回避するためにレベルセット法を導入し,その再現精度について検討を行った. 本研究で用いる解析法は有限要素法をベースとする直交格子法として構築されており,流体領域は直交要素によって分割される.濃度の移流拡散方程式と,フィックの法則に基づく膜の物質透過モデルを支配方程式とし,それら支配方程式は弱形式化されているため,数値積分により支配方程式の各項を算出する必要がある.膜を含む流体要素に対する数値積分では,膜と流体要素の交点を算出し,膜形状に沿って四面体分割(3次元)あるいは三角形分割(2次元)する必要がある.膜が移動する物質輸送解析ではタイムステップ毎にサブエレメントへ分割するために計算負荷の増大が問題となり,直交格子法の利点を損なうことからレベルセット法を導入した. 膜を含む流体要素においてレベルセット関数を有限要素法の形状関数を用いた多項式として定義した.数値積分にはガウス求積法を採用し,形状関数の次数による膜形状の再現性を評価した.対象は2次元流体要素内の1次元の膜形状とし,1次,2次,3次の形状関数を用いた.膜形状は折れ線形状と円形状の2つを採用した.形状関数の次数の増加に伴って膜形状の再現精度が向上することが確認でき,3次の形状関数で十分な精度を持つことがわかった.膜の移動による物質輸送問題に対しての有効性を調べるために,円形形状の膜が一定速度で移動する2次元検証問題を設定し,サブエレメントへの分割を用いた方法と比べた.三角形分割による数値積分を用いた方法とレベルセット関数による膜形状の近似を用いた方法の両解析結果に大きな違いは生じず,膜の移動による物質輸送問題に対しても有効であることがわかった.
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