本年度の研究実施計画書作成時点では疾患を冠動脈疾患および弁膜症と限定していたが、心臓血管疾患術後の自律神経活動の推移を網羅的に把握することに主眼を置き、大動脈疾患も対象疾患として追加した。同時に、70歳以上としていた年齢制限を20歳以上に変更し、累積症例数の増加を図った。その結果、累積症例数が50症例となり、前年度から増加した。その内、緊急手術となった症例、術直後の再開胸症例、ステントグラフト挿入術施行症例、測定不可能となった症例、自律神経活動失調症症例などを除いた41名を解析対象集団とした。 術前の自律神経活動レベルを基準とした場合、術直後に有意に低下し、その後は術後14日までの低値を維持した。特に、副交感神経活動は著明に抑制された。一方、交感神経活動に有意な変化は認められなかったものの、高値を維持した。これらの結果から、術後は副交感神経活動が抑制、交感神経活動が亢進状態になっており、自律神経活動バランスは偏っていることが示唆された。また、術後心房細動は5分間以上持続し、何らかの治療介入を要したものとして定義した場合、41名中19名(46%)で認め、高頻度に発症している事が明らかとなった。術後心房細動の有無で群間比較を行った結果、年齢や疾患群に有意差はなく、心停止時間との関連が示唆された。また、術前の自律神経活動レベルと術後心房細動発症に焦点を当てると、副交感神経活動レベルが関与している可能性があった。今後は、疾患毎の分析を実施するために、症例数を増やしていく必要性があると考えられた。 本研究で得たこれらの結果をもとに、研究期間内に国内学会および国際学会で各々口頭発表を行った。なお、測定装置使用に伴う有害事象は認められず、試験は安全に実施できた。
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