本研究では、近世後期から明治期を中心に東北地方で数多く書写された、奥浄瑠璃諸作品の表現分析を通して、当該地域の古典文芸の享受とそれを基盤とする創造の諸相を明らかにすることを目的とする。以下に、研究実績の中心になる2点に着目して略述する。 1、本年は前年に引き続き一次資料と二次資料の調査を行い、「奥浄瑠璃諸本基礎目録」の作成を進めた。新出資料として『善光寺之由来』等を確認でき、内容の充実をはかることができた。なお、調査の過程で、明治期岩手県県域の奥浄瑠璃の書写環境の解明につながる資料も見出すことができた。具体的な検証は今後の課題になるが、中世文学の展開としての奥浄瑠璃を位置づける際の手がかりを得ることができた点は、本年の重要な調査成果の一つである。資料及び文化環境の検証ができ次第、公表したい。 2、本年は2年に渡る本研究の成果報告の年でもあり、論文「牛若の地獄極楽遍歴譚試論 : 『天狗の内裏』の版本系諸本と奥浄瑠璃諸本をめぐって」(「立教大学日本文学」116号、2016年7月)等を公表できた。また、研究代表者が所属する山形大学の公開講座「東北の義経伝説と奥浄瑠璃―『奥の細道』を出発点にして」と題して成果の一端を報告した。この報告では、米沢・置賜地域の語り物文芸享受に言及し、これまで宮城県県域や岩手県県域に伝わると考えられてきた奥浄瑠璃が山形県県域でも展開していた可能性を指摘した。本報告については、報告書も執筆し、公表することができた。 以上が本年の主な研究実績だが、この他「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画 研究集会 新たな古典学としてのリテラシー史研究 ― 多分野融合による可能性を求めて ― 」(於東北大学 2016年9月10日)の口頭発表にて、奥浄瑠璃『湯殿山の本地』に言及し、奥浄瑠璃という文芸領域の意義を発信できたことも本研究の成果の一つである。
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