平成28年度では、貿易自由化が各産業の企業生産性に対してどのような影響を与えるかについて理論的分析を行った。特に、一部の非貿易財部門の貿易自由化(部分的開放政策)が既存の貿易財部門・既存の非貿易財部門における企業生産性へ与える影響について理論的に分析を行った。本研究成果はFujiwara and Kamei (2016)としてまとめられている。 Fujiwara and Kamei (2016)では以下の2つ結果を明らかにした。1.部分的開放政策によって、国内の賃金は必ず上昇する。2.部分的開放政策によって、新規の貿易財部門の企業生産性は改善するものの、既存の非貿易財部門の企業生産性は悪化する。特に既存の貿易財部門における企業生産性の下落幅が最も大きい、3. 関税下落は厚生を悪化させるが、貿易財部門数の増加は厚生に与える影響については確定しないことが明らかになった。部分的開放政策の効果として2.の効果は特に興味深いものであった。 1.から3.の経済学的解釈について説明する。部分的開放政策は新規に国際貿易に転じた部門の労働需要を増加させる。これが経済全体の賃金上昇を生みだす。賃金上昇はその他の部門における費用増加となるために、当該部門における企業の生産量は低下する。これは労働需要の低下を意味し、同時に分業が阻害され生産性が下落してしまう。 この他にも、寡占的一般均衡理論と競争政策に関する論文を新たに1本報告した。また、Kamei and Sasaki (2016)がManchester Schoolに掲載された。
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