研究課題/領域番号 |
15H06066
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
河田 英介 筑波大学, 人文社会系, 助教 (10756266)
|
研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 英語・英米圏文学 / アメリカ文学 / 詩学 / レトリック / 文芸思想 / 言語の可謬性 / ヘミングウェイ / ニュー・クリティシズム |
研究実績の概要 |
平成27年度は第一に、研究射程目標としていた六つの短編作品の第一次文献調査を進め、ニュー・クリティシズム的手法からテクストの徹底的な読解を実践した。さらに英語文法及び作者文法的な視点から、各々の作品を特徴付けている重要部位に着目し、その語法の入念な観察とともに、それが作り出す意味の流体作用を分析した。 第二に、修辞学的及び詩学的観点から、その形式と小説内容の関係性の解析調査を進めた。個々の作品のナラティヴがどのようなレトリックとロジックのメカニズムによって構成されているのかを分析し、その中でも特に “The Light of the World"、 “The Sea Change"、及び “Cat in the Rain" の三作品において、そのメカニズムがどれほど徹底的に組み込まれているのかの調査・考察に取り組んだ。 第三に、両作品の調査から現出してきた第一次文献レベルの生成原理の輪郭を素描するとともに、アーネスト・ヘミングウェイの省略的書法である「氷山理論」の根本原理を確認するために、多くの二次文献に当たった。その後、当調査はこれまで言及されることのなかった「氷山理論」の「転倒的性質」及び「可謬的性質」という新たな性質を見い出した。そしてそれらの新たな性質を仮説付けるために、論文の執筆を始めた。 第四に、当研究の仮説の信憑性を調査するために、米国マサチューセッツ州ボストンにあるJFKライブラリーのヘミングウェイ・ルームに赴き、研究射程目標としている六つの短編作品の初期草稿および編集・校正草稿、ゲラのマニュスクリプトの調査を行った。ヘミングウェイがどのように原稿を執筆・編集・校正したのか、さらにどのような方向性をもって自らのレトリックを精錬させ、作品そのものの芸術性・審美性を高めていったのかの実践を見極める作業を通じて、本年度特に調査・考察を深めた三作品に対する仮説を裏付ける論文を完成させた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予想以上に順調に進んでいる。当初の計画では、二年間で少なくとも二本の研究論文を提出するというものだったが、一年目の終わりで既に三本を提出することが出来た。これは科学研究費による研究資料購入と研究設備の安定化によって計画が予想以上にスムーズに進んだためである。現在は、平成28年度に決定している国際ヘミングウェイ学会と日本文体論学会における口頭発表において、当研究の成果を他の作品に応用し、さらに発展させた議論を公表する準備をしている。そこにおいては、平成27年度に論文で取り上げなかった他の三つの作品を取り上げる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度にある程度の成果が出せたとはいえ、ここで停滞することなく、研究射程目標にしている他の三つの作品についても既に上梓した論文と同様にレベルの分析調査を行う。平成28年度に決定している日本文体論学会と国際ヘミングウェイ学会の口頭発表では、この研究によって獲得された成果を応用し、新たな作品において発表する。そしてフロアからのフィードバックを元に、仮説の裏付けをさらに強固なものにしたい。そして平成28年度末までに、課題のタイトルにもあるヘミングウェイの1920年代の初期諸短編作品におけるレトリックとロジック全体を把捉しうるような「生成原理」の本質に迫り、それを論文としてまとめたい。
|