本研究の目的は、学校数学における方程式の学習状況を改善することを目指して、方程式の中の文字の見方を変更する場面に焦点を当て、生徒の困難性とその要因を特定するとともに、困難性を解消する方法を提案することであった。この目的を達成するために、平成28年度は次のように研究を遂行した。 第一に、数学的概念の二面性を視点として仮説的な学習過程の理論的考察を行った。理論的考察の対象は、「数と式」領域で取り扱われる整式、方程式、関数の学習過程である。この理論的考察により、仮説的な学習過程に潜在している、プロセスプロダクトジレンマ(Sfardら、1997)や本研究が焦点化する文字の見方の変更に関わる教科内容を教材レベルで特定することができた。つまり、文字に対する困難性のうち数学的概念の二面性に起因するものに影響を及ぼし得る教材を明らかにした。 第二に、変数概念の育成を目標に提案された教科書「Concepts in Algebra」と日本の教科書との比較を行った。この比較により、本研究において理論的考察の対象とした仮説的な学習過程の特徴が顕著に表れた。比較した双方の教科書では「未知数」としての文字の取り扱いに違いがあることが明らかになった。この成果に基づき、教授実験の設計を進め、困難性を解消する方法を考察した。 以上の考察の意義は、これまで特に研究対象とされてこなかった、文字の見方を変更する際に顕在化する困難性に焦点化し、数学的概念の二面性をもとにその困難性の要因を考察したことにある。一方で、数学的概念の二面性により生起する生徒の困難性の綿密な分析や、困難性を解消する方法の実証的な検証には至っていない点に課題がある。
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