研究課題/領域番号 |
15H06070
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
奥村 宏典 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80756750)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 高濃度p型ドーピング / 点欠陥 / バックワードダイオード / トンネル電流 / 結晶成長 / 接触抵抗 / アンモニアMBE |
研究実績の概要 |
本研究では、窒化ガリウム(GaN)を基盤とした高出力デバイスの高性能化を目指す研究を行った。以下に本年度に得られた成果をまとめる。 (1)p型GaN結晶成長におけるMgドーピング制御:アンモニアを原料とする分子線エピタキシ法により、MgドープしたGaN(GaN:Mg)結晶成長を行った。GaN:Mg層の実効的なアクセプタ濃度(Na-Nd)を、電気化学容量電圧測定により調べた。740度の低温成長により、Na-Ndを3e17cm<-3>から7e19cm<-3>まで、幅広く制御できた。ドナー性の点欠陥の発生を抑えられたためと考えられる。 (2)高濃度Mgドープにより発生させたGaN層中の点欠陥評価:GaN:Mg層の点欠陥密度と種類を陽電子消滅法により調べた。高いNa-Ndが得られる領域では、点欠陥密度が小さいことが分かった。1e20cm<-3>以上の高濃度Mgドープした試料では、Ga空孔を中心とした点欠陥が増大したが、Inをサーファクタントとして用いることで、高濃度Mgドープ試料でも点欠陥濃度を抑えられることが示された。 (3)p型GaN層の電気的特性:Na-Ndが1e19cm<-3>以上あるGaN:Mg層にNiを蒸着し、酸素アニールしたところ、オーミック性接触が得られた。アクセプタ濃度が高いほど、ポテンシャル障壁のトンネル効果により接触抵抗が低減し、2e-5Ωcm<2>の最小値が得られた。室温ホール効果測定では、最大で2e19cm<-3>の正孔濃度を示した。 (4)GaNバックワードダイオードの初動作:高濃度のn型GaNおよびp型GaN層を用いてpnダイオードを作製した。150Kから450Kの幅広い温度領域で整流性を示すバックワードダイオードを実現した。-1Vで225A cm<-2>の高い逆方向電流が得られ、GaNでもトンネル接合を用いたデバイス応用が可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、デバイスプロセスがInAlN層に与える電気的特性について点欠陥の観点から進める予定であった。試験用の試料として評価しやすいGaNを用い、Mgドープにより欠陥を発生させたところ、予想外に高品質のGaN:Mg結晶成長が得られた。本年度は、点欠陥を含めたp型GaNの詳細な物性研究に時間を要する一方で、GaN系光学デバイスの応用を更に広げる可能性を示した。
GaN:Mg関連の研究として、非常に高い実効的なアクセプタ濃度(7e19cm<-3>)、1e19cm<-3>以上の高濃度Mgドープでも低い点欠陥密度、最高値となる正孔濃度(2e19cm<-3>)の実現、p型接触抵抗の大幅な低減(2e-5Ωcm<2>)、GaNを用いたバックワードダイオードの初動作など、多数の成果が挙げられている。本成果を活かした、トンネル接合型の垂直共振器面発光レーザーの作製にも着手し、レーザー発振には至らなかったものの、高い電流狭窄を達成することができた。当初の研究計画と方向が異なるものの、優れた研究成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画にあった、デバイスプロセスによる高出力デバイスの高性能化に向けた研究を行う。ただし、研究機関の移動と、p型GaN成長で大きな成果が得られたことを最大限に活かした、GaN系高出力デバイスの高性能化に着手する。
高出力デバイスとしては、高濃度p型GaNを活かした、GaN接合型トランジスタ(BJT)の作製と高性能化を試す。これまで、GaN-BJTは、高濃度p型GaN層が得られなかったため、HEMTと比較するとあまり多くの研究がなされていない。各層の不純物濃度と膜厚の制御、およびデバイスプロセスの最適化により、高出力デバイスの更なる高性能化が期待できる。
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