分泌蛋白質MFG-E8は、アポトーシス細胞貪食の制御やコラーゲン代謝能の制御など様々な機能の制御に関わっている。これまでに申請者のグループは、MFG-E8が血管新生を介して腫瘍増殖や創傷治癒を促進することを明らかにした。また、申請者は皮膚虚血再還流障害(褥瘡)モデルマウスを確立させ、MFG-E8の投与によって、アポトーシス細胞を抑制し、炎症性サイトカインの産生や炎症性(M1)マクロファージを抑制することで組織傷害を軽減すること、すなわち、褥瘡の発生を防ぐことができることを明らかにした。 近年、間葉系幹細胞と虚血再還流障害に関する様々な研究がなされており、ラット脳や肝臓、腎臓において間葉系幹細胞がアポトーシス細胞や酸化ストレス、一酸化窒素合成酵素などを抑制することが知られている。しかし、皮膚の虚血再還流障害における間葉系幹細胞の役割に関してはこれまでに明らかとなっていない。また、我々が独自に作成したマウス骨髄由来間葉系幹細胞は多くのMFG-E8が発現することを見出した。これらの知見から、皮膚虚血再還流障害において間葉系幹細胞が重要な役割を担っている可能性が高く、さらに間葉系幹細胞による機能制御には間葉系幹細胞が産生するMFG-E8が重要である可能性が考えられた。 本研究では、間葉系幹細胞による皮膚虚血再還流障害におけるアポトーシス細胞の抑制や抗炎症作用、血管新生など様々な機能制御の機序および間葉系幹細胞由来の分泌蛋白質MFG-E8の役割を明らかにして、今後の臨床応用への基盤となる研究を行う。 現在、間葉系幹細胞投与群とコントロール(PBS)投与群における虚血再還流障害後に生じる潰瘍形成に対する影響を比較、検討している。次に、間葉系幹細胞由来MFG-E8の有無による虚血再還流障害への影響についても順次検討を進めていく。
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