今年度は、嫌気雰囲気下で、[FeFe]-ヒドロゲナーゼとその金属コファクター生合成酵素の生合成系に対し、in vitro、あるいは、in vivoでの人工補因子の添加による機能変化を検討した。in vitroの系では、His-tagを導入した[FeFe]-ヒドロゲナーゼと3種の生合成酵素の合計4種の酵素を、同時にNiアフィニティカラムクロマトグラフィーで一段階で精製し、異種金属であるRu、Pt、Reの塩化物塩を種々の濃度で添加し作用させた後、生合成系のヒドロゲナーゼ活性を評価した。しかしながら、活性の向上は見られなかった。そこで、4種の酵素を別々に精製し、異種金属添加の影響を調べた結果、どの酵素の場合にも、鉄硫黄クラスターが部分的に分解している傾向が見られた。ヒドロゲナーゼ活性を司る活性中心金属コファクターの生合成に必要な3種の生合成酵素はどれも鉄硫黄クラスターを持っているため、この手法では活性向上は困難と考えられた。そこで、より温和な条件と考えられる、[FeFe]-ヒドロゲナーゼ生合成系を発現させた大腸菌細胞内(in vivo)での、異種金属のヒドロゲナーゼ活性の影響を検討した。培地に異種金属を添加して、[FeFe]-ヒドロゲナーゼ生合成系を発現させ、同様にヒドロゲナーゼを精製し活性測定した結果、活性の向上は見られなかった。原因は現在検討中であるが、おそらく異種金属イオンの大腸菌への取り込み効率が低いことが原因の1つと考えられる。今後は鉄硫黄クラスターへの異種金属の影響を抑えつつ、生合成系をin vitroで構築する系や、鉄硫黄クラスター生合成酵素のin vivo共発現系を検討する必要がある。実際に、大腸菌では鉄硫黄クラスター生合成系は2種類あり、鉄硫黄タンパク質への相互作用がそれぞれ異なることが示唆されていることから、これらの使い分けも検討する必要がある。
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