昨年度に引き続き,組合せ論を応用することで,量子符号理論と古典符号理論の双方を,その強い結びつきに着目しながら研究を行った.前年度はデザイン理論を主な道具とする研究が最も成功を納めたが,本年度では,確率的組合せ論並びに有限幾何学を有効に利用した証明技法が発展した. 本研究の背景には,誤り訂正を行う回路自身も安定して信頼ある動作が保証されないような状況下では,通常の誤り訂正よりも,より根源的な誤り耐性の仕組みが必要であるという事実がある.量子情報処理において,こういったフォールトトレランスという概念が必要となる状況下では,通常,誤り訂正の際に量子力学的操作を行う量子ビット数を極力少なくすることが望まれる.簡単に言えば,誤った動作をしてしまう可能性があるならば,手を出す数を少なくしたい,つまり同じ目的が達成できるのならば,出来るだけ単純な仕組みで実現したい,という素朴な要請である. 研究代表者による前年度までの研究により,上記の,素朴に実装するという要請を度外視すれば,量子誤り訂正符号の代表的クラスであるスタビライザー符号を巧みに利用することで,フォールトトレランスの負担を軽くすることが出来ると示されていた.本年度では,このスタビライザー符号を利用した擬似フォールトトレランスが,干渉する量子ビット数を,古典符号理論においては low-density parity-check(LDPC,疎密度検査行列)符号と称される程度にまで,少なく抑えられることを発見した.また,この研究の流れを汲んだ古典符号理論及び組合せ論の研究課題をも新たに提起することとなり,本研究が当初目指した通りの成果が得られたと考えられる. なお,現在,本研究で得られた研究成果の公表のため,関連する研究成果も含めた論文を,ゲント大学数学科 Peter Vandendriessche 研究員らと共に執筆中である.
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