刑務所における薬物依存離脱指導は、違法薬物の使用を「精神疾患としての薬物依存症の問題」として捉える治療的介入が採用されている。一方で、「自身の欲求を満足する手段として犯罪行動を選択する反社会的な生活」を背景に違法薬物の使用をする者も少なくないため、従来の治療的介入のみでは再使用防止につながりにくい者がいることが想定される。そこで、本研究では「薬物への依存性」に加え「反社会性」を踏まえた薬物依存離脱指導の方法について検討することを目的とした。 刑事施設に収容されている者を対象に、薬物再使用リスクを測定するC-SRRS(山本他,2011)、反社会性を測定するJCTI(Kishi et al.,2014)、および薬物への依存性としてDAST-20(Skinner,1982)を含む質問紙を配布し回答を求めた。なお、本研究は千葉大学大学院医学研究院倫理審査委員会の承認を得て実施された。 C-SRRS得点と各尺度得点の相関係数を算出したところ、再使用への欲求、情動意欲面の問題、および薬理効果への期待は依存性と反社会性の両方との間に正の相関が確認された一方で、薬物使用への衝動性と薬害・犯罪性の否定は反社会性とのみ正の相関が確認された。 この結果を受け、「薬物への依存性」と「反社会性」の個人差の査定を実施した上で状態像に応じた心理学的介入を行うプログラムを開発した。開発したプログラムの実施と検証については、平成28年度に全国の刑事施設における薬物依存離脱指導の実施体制に大きな変更があったため、平成29年度以降の実施に向けた調整を行っており、刑事施設との調整がなされた時点において実施する予定である。なお、すでに実施が終了している調査研究については、国際誌への投稿を予定している。
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