研究実績の概要 |
本研究は、セルフデカップリング型の人工的な磁性ナノ構造を作製し、その磁気状態を解明することを目的とする。本年度は、単一フタロシアニン分子と複数個のFe原子を組み合わせた複合物を作製し、その状態を調べる計画であった。事前に報告のあった単一フタロシアニン分子と単一Fe原子を組み合わせる実験の再現を試みた。Fe蒸着前に、見え方の異なる複数の分子を観測し、土台分子の同定が必要であることが明らかになった。 並行して、磁性体ペロブスカイト型SrIr1-xSnxO3 ナノ薄膜の作製および磁性・電気伝導度測定を開始した。この物質はバルク多結晶状態においてx の増加に応じて常磁性半金属から弱強磁性絶縁体に転移することが報告されていた。磁性原子(Ir)のナノレベルでの配列の変化に伴う磁性変化を示す点で、本研究の興味深い対象である。単結晶が得られておらず、磁気構造に関する情報がないため、エピタキシャル薄膜を作製することにより異方的な特性を調べることを目指した。パルスレーザー堆積法を用いてSrTiO3(001) 基板上にこの物質(x=0, 0.1, 0.2)のエピタキシャル薄膜を作製することに成功した。x=0.2 のとき、バルク多結晶と同様に常磁性半金属から弱強磁性絶縁体に転移すること、弱強磁性磁化の方向は基板面内方向であることを見出した。結晶軸方向に固定された磁化は、この弱強磁性がジャロシンスキー-守谷相互作用の結果生じる傾角反強磁性秩序に由来していることを示唆する。
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