研究課題/領域番号 |
15H06093
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
杉本 高大 千葉大学, 先進科学センター, 助教 (70756072)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 励起子絶縁体 / 層状遷移金属カルコゲナイド / 超音波吸収 / 核磁気共鳴 / 量子干渉 / 反磁性 |
研究実績の概要 |
励起子相とは固体内部で励起子が自発的に量子凝縮を起こした相で、この相が実現している物質を励起子絶縁体と呼ぶ。励起子は電荷を持たないためにその検出が困難であり、現実に励起子相にある物質は見つかっていなかった。しかし近年の実験手法の充実と技術の向上により、その候補物質として層状遷移金属カルコゲナイドTa2NiSe5が注目を集めるようになった。 本研究ではTa2NiSe5が励起子相にあることを実証する実験の提案のため、有効模型の構築を行った後、励起子相に特有の量子干渉効果を見ることのできる超音波吸収率と核磁気共鳴緩和率の計算を行った。その結果、超音波吸収率では励起子相への転移と見られる温度の直下で特徴的なピークが現れる一方、核磁気共鳴緩和率では転移温度直下で急激な減衰が見られることがわかった。これらは建設的あるいは破壊的な量子干渉効果のあらわれであり、実験で観測することができればTa2NiSe5の励起子相転移への有力な証拠となりうる。さらに転移温度における比熱のとびやフォノンのソフト化についても解析を行い、Ta2NiSe5の励起子相転移におけるふるまいを明らかにした。 また、Ta2NiSe5では相転移に際して反磁性の増大が見られる。このことを明らかにするため励起子相を説明するもっとも簡単な模型である、伝導帯と価電子帯からなる2バンド模型を用いて、反磁性磁化率の計算を行った。この結果、伝導帯と価電子帯の電子が励起子凝縮により混成を起こすことで、励起子相では反磁性を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、Ta2NiSe5の有効模型の構築を行い、量子干渉に関する計算に成功した。励起子相における反磁性に関しては、簡単な模型に対する計算は実施できており、現在はTa2NiSe5を説明する模型での計算へ拡張を行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
Ta2NiSe5は励起子相への転移と見られる温度で反磁性の増大が見られる。Ta2NiSe5を説明する模型に対して、反磁性磁化率の計算を行い、この起源を明らかにする。 さらに、Ta2NiSe5では圧力を加えると励起子相への転移が抑制され、高圧下では超伝導が発現する。高圧下でのTa2NiSe5の電子状態を明らかにするため、第一原理計算の手法を用いた物理量の計算、および強相関電子系に対する数値計算手法を用いた励起子揺らぎ媒介の超伝導に関する計算を行う。
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