元々混成のない伝導電子軌道と価電子軌道の間に働くクーロン相互作用のため、自発的に励起子が形成した相を励起子相と呼ぶ。励起子相にある物質の候補としてTa2NiSe5などの遷移金属カルコゲナイドやコバルト酸化物が挙げられている。Ta2NiSe5が励起子相にあることを実証するために、本年度はTa2NiSe5の磁化率および光学伝導度の理論計算と解析を行い、実験で得られているデータとの比較を行った。 磁化率に関して、Ta2NiSe5の2次元模型を構築し、励起子相を仮定してスピン磁化率と軌道磁化率を計算を行った。その結果、実験で見られているような磁化率の温度依存性がよく再現できることが分かった。次に、第一原理計算にTran-Blaha modified Becke-Johnsonポテンシャルによって相関効果を取り入れて得られたTa2NiSe5の通常相の電子状態を元に、光学伝導度の計算と実験データとの比較を行った。スペクトルの可視光~紫外領域の高エネルギー域では計算は実験をよく再現するが、赤外の低エネルギー域では一致しないことが分かった。励起子対形成を導く軌道間の強い相互作用を取り入れた有効模型を使って光学伝導度の数値計算を行うと、低エネルギー域の光学伝導度がよく再現できるようになる。この軌道間相互作用がTa2NiSe5の励起子相転移を引き起こしていると考えられる。 以上の成果により、Ta2NiSe5が励起子相にあることを支持する結果が得られ、励起子相実証に向けた研究が大きく進んだ。 また、励起子相の集団励起の性質を調べるため、スピン三重項励起子相にあると予想されているコバルト酸化物Pr0.5Ca0.5Co3の第一原理計算から有効模型を構築し、一般化された動的スピン感受率の解析を行った。これにより、励起子相における集団励起の振る舞いが明らかとなった。
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