本研究は、フランスの19世紀、特に1850年代から1870年代の、高踏派からランボーにいたる作品におけるヘレニズムとキリスト教の混淆を明らかにすることを目的としている。研究最終年度にあたる平成28年度は、ランボーの散文詩における身体描写に焦点を当てた。 第二帝政下の公教育においてはギリシア語・ラテン語といった古典教育が重視され、ギリシア神話は基礎的知識であった。ランボーのアカデミー学区で使用されていた教材を調査し、ランボーの散文詩篇に特に関わりのあるギリシア神話の形象の整理を進めた。その上で、ランボーの散文詩篇の分析を行った。当初はイエスの表象についても同様の調査をする予定であったが、ギリシア古典に関する教材だけでも膨大な資料があったため分析対象を絞る必要があった。そのため、学校教材として認可されていたオヴィディウス『変身物語』の複数の版や神話事典類を中心に、限定された形象の抽出を行った。 ランボーは、神話的題材を断片的に取り入れたり、子供向けに書かれた寓話の文体を模倣したりしながら、幻想物語の中に現実に対する鋭い洞察を織り込んでいる。神話的題材の利用は初期の作品にも散見されるが、後期の作品の特徴として、そうした題材を原典の文脈から大きく引き離し、高踏派のパロディにとどまらない独自の物語を構成している点が明らかにされた。こうした分析の成果の一部をまとめ、学会で発表した。発表内容は学会誌に掲載予定である。
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