本研究の目的は、聴覚障害のある親をもつ健聴の子ども(Children of deaf adults;CODA)と親との関係性について、CODAの通訳役割に基づいた親子の役割逆転の観点から、その構造と機序を解明することである。 前年度は、役割逆転に係る因子として、CODAが親を擁護する「親への積極的擁護」因子と「親の無力さによる不可避的擁護」因子及び親側のCODAに擁護される「CODAへの被擁護認識」因子を明らかにした。今年度はこれらの因子を基に、各々の因子に関与する諸要因を親子の相互性から解析した。CODA側では、基本的属性、心理的状況因子(前年度の解析結果)の他、親子の相互性に係る要因として親の最終学歴等の基本的属性、親との会話レベル等の会話状況、通訳頻度等の通訳状況を従属変数に用いて解析した。その結果、「親への積極的擁護」因子は、両親とも聴覚障害者で高年齢、親との会話成立レベルが高く、自己肯定感を形成する要因に規定された。「親の無力さによる不可避的擁護」因子は、親との会話成立レベルが低く、通訳頻度が高くて親の障害に困惑し、高年齢で親との関わりを回避する要因に規定された。親側の「CODAへの被擁護」因子は、子育ての困惑・不安が高く、高年齢で障害の引け目がある要因に規定された。 以上により、役割逆転関係が生じやすい親子の傾向の機序を示すことができ、関与する要因を減じる支援法の検討を可能にした。今後は、さらに親子ペアでの解析にも関心が持たれ、次の研究課題といえる。
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