研究課題
本研究は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、力によって誘起される化学反応を制御し、力と化学反応の相関を単分子レベルで解明することを目的とした。本年度の研究で得られた成果を下に記す。(1) AFMによる水分子ネットワークの超高分解能観察水分子ネットワークをAFMで観察することで、極めて高い空間分解能で構造を可視化できることを示した。先端を一酸化炭素で修飾させた探針(CO tip)を用いて、銅表面上に成長した水単分子層の観察を行った。走査トンネル顕微鏡(STM)では水分子の位置が判別できなかった一方で、AFMによって個々の水分子の位置が明確化された像が得られた。探針―試料間に働く力の精密測定によって、探針先端と水分子内の酸素原子との間に働くパウリ斥力によって高分解能像が得られることが示された。AFMによる個々の水分子の可視化に初めて成功した本成果により、水素結合のように比較的弱い力で結びつく分子組織体を可視化する手法の革新が期待される。(2) 歪みによって駆動する分子内骨格転位反応の観察ねじれた分子を金属表面に強く吸着させる、すなわち「分子を表面に押し付ける」ことで、分子内に「歪みエネルギー」を蓄えさせ、それによって特異的な化学反応を起こすという、「表面を用いた歪み誘起反応」を実証した。アズレン基を有する多環芳香族分子を銅表面に吸着させて加熱することで、アズレン基の一つがフルバレン基に転位することがAFMによる高分解能観察によって確認された。このアズレン―フルバレン転位は、有機合成手法を含めてこれまで報告例の無い反応である。加熱によってアズレン基が大きく歪んだ中間体が表面上で生じ、その歪みエネルギーを解消するために、平坦なフルバレン転位体が最終生成物となることが明らかになった。このような新しい合成法の発見は、新規な炭素材料の設計・作製に大きく貢献する成果である。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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