研究課題/領域番号 |
15H06132
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
挾間 優治 東京大学, 物性研究所, 助教 (80759150)
|
研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 光物性 |
研究実績の概要 |
高密度光励起下における半導体レーザーの発振特性を調べることを目的として、チタンサファイア再生増幅器を光源とする時間分解発光測定用の光学系を構築した。そして、サファイア結晶を用いて白色光を発生させ、そのスペクトルを測定することで、完成した測定系におけるチャーピング特性を評価した。この測定系において、GaAsバルク半導体レーザーを高密度に励起し、その際に生じた光パルスの時間分解スペクトルを測定した。より低密度の励起条件下で行われた先行研究では、短波長側で短い光パルスが発生した後、時間と共に徐々に長波長側へと波長がシフトし、パルス幅が長くなるという現象が観測されていた。本研究では、より高密度の励起条件下において、パルス全体のスペクトル幅の増大、中心波長のシフト、長波長側でのダブルピーク構造の消失などが観測された。このような振る舞いは、半導体中の電子と正孔のフェルミエネルギーの増加、キャリア温度の上昇、非平衡キャリアの高速エネルギー緩和といった効果が複雑に競合していることを示している。また、光励起の際の余剰エネルギーを減少させたところ、中心波長やパルス幅の励起密度依存性に違いが見られた。このことは、光パルスの時間幅が電子・格子相互作用の時間スケールに近づくことで、電子と正孔の冷却過程が光パルスの特性に強い影響を及ぼしていることを示唆している。このように、半導体レーザー中の高密度励起状態とそこから発生する光パルスの振る舞いは非平衡キャリアの運動を反映した複雑なものになっており、測定条件を変えながら、系統的な実験データの蓄積を引き続き進めていく必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、高密度光励起下における半導体レーザーの発振特性とその発現機構を解明することである。平成27年度には、高強度レーザー光源を用いた時間分解顕微分光測定系を構築した。そして、その測定系を用いて高密度光励起下で半導体レーザーから発生させた光パルスの時間分解スペクトルを測定した。この測定から、高密度励起に伴って、非平衡キャリアの動力学を反映した、スペクトル幅、中心波長、時間波形のピーク構造の変化が観測された。さらに、励起波長に対する発振特性の変化から、キャリアの冷却過程の重要性を示唆する結果が得られた。今後、今回観測された複雑な発振特性の全貌を明らかにするために、様々な実験条件下でさらなる測定データを蓄積する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
励起密度、試料温度、励起波長といった条件を変化させた上で測定を進め、複雑な発振特性の全体像を明らかにする。さらに、半導体内部のキャリアの運動をより詳細に観察するための測定を行う。
|